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「フィナ、ダメだ!!」
浴びせられた大声に心臓が跳ねた。突然、目の前に蛍のような光が現れる。それは蛍にはありえない速さで鳥へ向かっていき、ひときわ強く輝いた。
「チュン! チチチチ」
さっきまでのんびりしいていた鳴き声が、威嚇するような強い調子に変わった。ばさばさ翼を羽ばたかせ、今にも逃げそうに見える。けれど、一向に逃げない。
近所にいなかったタイプの鳥だ。全然臆病じゃない。人間より小さいのに、自分が人間に勝てると思ってるんだ。だって、こっちに向かってくる!
体がふわっと浮かび上がった。フレンに抱き上げられたのだ。それでも、鳥は空を飛んで私に向かってくる。
「ひっ!」
思わずフレンにしがみつくと、彼は盾を振るって鳥を払いのけた。そいつは地面に落ちたが、すぐに起き上がってまた羽ばたきをはじめた。
「ソディア!」
「はい!ルミナンサイス!」
再び蛍の光が現れた。さっきと同じように鳥へ向かって行き、大きく輝く。光が収まったとき、そこに鳥の姿はなかった。
フレンは盾を構えたまま周囲を見回し、安全を確認して構えを解いた。即座に顔が私へ向く。
「怪我は!?」
初めて見る彼の厳しい表情と余裕の無い態度に、すぐ言葉が出てこなかった。
「フィナ? まさか、麻痺毒に……」
「だ、大丈夫です。なんともありません」
私が答えると、彼はようやく表情を和らげた。
ソディアに周囲の再確認を頼み、彼は私を抱えたままキャンプの中心地へ向かった。
薪集めの任務はこれで解雇だ。力になるどころか、逆に迷惑をかけてしまった。
地面に下ろされ、彼が屈んで目線を合わせる。その表情は硬い。
怒られる。瞬間的にそう悟って、私は情けない声で謝った。
「ごめんなさい」
フレンは眉尻を下げて、ちょっと困った顔をした。
「フィナ。これから帝都に向かうまでの間、守って欲しいルールがある」
「はい」
「まず、魔物に近付いてはいけない」
「まもの?」
「さっきのような、野生の生き物だ。魔物は人を襲う」
「はい」
「二つ目。知らない物、変なものには触らない」
「へんなもの?」
「そう。毒のある植物や、岩のフリをしたゴーレム。いろいろなものが結界の外にはあるんだ」
「はい」
「あとは……そうだな。分からないことがあったら、何でも僕に訊く事」
いいね?という確認に大きく頷くと、フレンは満足げに微笑んだ。
要約すると、『危険なことはするな』ということだ。
そんなことは分かってる。さっきのことは危険だと思わなかった故の行動だ。まさか、一匹のスズメが人を襲うなんて誰も思わない。あれが魔物だなんて知らなかった。
そう、私はこの世界のことをほとんど知らないのだ。