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男性の本を読む姿とはいいものだ。
一般に男性は女性よりも集中力が高い。幾つものことに注意を分散できる女性と違い、男性は本を読み始めるとそれだけに集中してしまい、声をかけても気付かない。ましてや、見られている事に気付くことなどあろうか。

私の見つめる先で、豆だらけの手がページを捲る。私は知っている。あれは剣を持ち続けた手。勤勉な彼の努力と苦労がにじみ出た、とても魅力的な手なのだ。
その手の持ち主である私の上司、フレン小隊長は、案の定私の視線など微塵も気付かず、微かに眉根を寄せた真剣な表情で書物に見入っていた。
あと五分で交代の時間だ。それを知らせるのは部下である私の役目。それまでは読書を邪魔してはいけない。
ふと、床に落ちたペンに気付き、屈んで手に取った。恐らく小隊長のものだろう。彼の執務机の上に戻さなければ、と視線を上げると、本の表題が見えた。

『子供の歯を守ろう! 正しいはみがきの方法』



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