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怖い。アイツの機嫌を損ねるような事を口にすれば、きっとまた暴力を振るわれる。
いいや、今はフレンが近くにいる。キュモールが私に危害を加えようとしたとしても、彼がきっと止めてくれる。私を守ってくれる―――
恐怖を吹き飛ばす、ポジティブな考えが浮かぶ。けれども、喉は何かが引っ掛かったように詰まったまま。一向に声が出せなかった。
キュモールが鼻で笑う音が聞こえる。悔しい。どうして、声が出ないのだろう。

「自分の気持ちを、意志を形にするのは大切な事だ」

出し抜けにフレンが言った。半ばほうけながらそちらを向くと、彼は説教をするときのような目と、ハッキリした口調で続けた。

「人の気持ちは目に見えない。だから、きちんと言葉にして伝えなくてはならないんだ」

彼はそこで一旦区切り、気持ちを落ち着けるように一回、深呼吸をした。
そして、声を張った。

「フィナ。僕は覚悟を決めた。これから先、ずっと君を愛し続ける。君を守り、君と共に歩こう。それがきっと、僕の天命。君と出会った時から……それは決まっていたんだ。僕はもう、君と離れるなんてできない!」

何を聞いたのか、しばらく理解できなかった。
ただ、自然と顔が熱くなって、胸がばくばく言って、嬉しさが胸にこみ上げる。

「フィナ。君の気持ちはどうかな? 僕に聞かせてくれないか」

心音がひときわ大きくなった。私の気持ち。私も、彼のように自分の気持ちを正直に、赤裸に白状するべきだ。とはいっても突然の事で、気持ちの整理なんて全然ついていない。フレンのように立派な考えは持っていないし、この胸に抱いているものの名前だって分かっていない。
けれど、一つだけ分かっている事があった。
鍵を開けて、宝箱の中身を使うのは、今しかない。

「私、貴族の子なんて嫌。フレンと一緒にいたい。私、フレンが好き!」

彼の顔がほころんだ。
メイドの手なんか気にせず、フレンに向かって駆けた。当然、手を引かれて引き止められる。けれど、それに反抗してこっちからも引っ張り返した。ガシャガシャと鎧の音が私の周囲に集まる。騎士が何かしたのか、彼女が驚いたからなのか分からないが、捕まれていた手が自由になった。引っ張る力が無くなって、少しバランスを崩す。すぐに立て直して顔を上げ、フレンを見ようとした。
浅葱の鎧を遮って、紺色の影が現れた。

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