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メイドは僅かにたじろいだが、すぐに「お引取り下さい」と半ば叫ぶように言い返した。

「我々は法の下に動いています。拒否すれば、公務執行妨害となりますよ」

フレンの目が鋭くなった。彼の背後に控えていた、数人の騎士達が横に広がり、裏口から伸びる小道を塞いでしまった。騎士は皆大柄で、横に並んでいるだけでかなりの威圧感を感じる。メイドの手が震えるのを、掴まれた手から感じた。
フレンがこちらに向かって一歩踏み出した。その時だった。

「待ちなよ」

物々しいこの場には不釣合いな、気取った声が割って入った。
一瞬で声の主を判別した私は、どこか隠れる場所を探し、メイドの影で妥協した。カツカツとヒールの音が近付いてくる。間違いなく、アイツだ。

「キュモール隊長……」

微かな憎しみを感じる声でフレンが呟いた。明らかに奴は歓迎されていない。

「騒ぎに気付いて来てみれば……不正だって? 妬むのもいい加減にしなよ。ま、気持ちは分からないこともないんだけれど」

彼はやれやれ困った、という風に片手の手のひらを天に向ける。
なんて言い草だろう。フレンはそんな醜い感情で行動するような人じゃない。
不満が胸に渦巻いたが、実際に物申す勇気は無かった。キュモールは調子よく言葉を続け、「君も知っているだろう? その子の養子縁組は、評議会で正式に認められたんだ。今更不正も何も無い」と胸を張った。

「いいえ。この縁組は、法が定める成立条件を満たしておりません」

フレンが毅然とした態度ではっきり言い返す。途端にキュモールの機嫌が急降下する。

「だから! ちゃんと認められたって言っているだろう!!」

ヒステリックな叫び声。あの時の記憶が蘇って、体がビクリと震えた。また、私に八つ当たりしてくるかもしれない。そんな恐怖が湧き上がる。心拍数が上がって、まるで冷気に包まれたように周囲が冷たく感じて、体が固まる。

「フィナ」

急に名前を呼ばれて、はっとフレンを見た。彼の意志の強い、深い海の様な瞳が私を見つめている。

「君はどうしたい?」

「え……」

面食らって話せずにいると、彼は「この家にいたいかい?」と補足した。
そんなの嫌に決まっている。早くこの家から逃げ出して、フレンの所に戻りたい。けれど……
まるで猛毒を塗った矢で狙われているような威圧感が、容赦なく私に降りそそいでいる。源を確認しようと目を向けるが、怖くて足元で止まってしまう。頭を上げれば、鬼のように釣りあがった臙脂の瞳が、私を射殺さんと睨んでいるに違いない。

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