□3

[ 135/156 ]

***



昨日の事は、夢だったのだろうか。
フワフワの羽毛布団から這い出し、辺りを見回した。生活感の無い家具と大量のぬいぐるみ。昨日脱出したはずのキュモール伯の屋敷だった。服も、きちんと寝巻きに着替えている。
やっとフレンと会えたと思ったのに。
鼻と目が熱くなる。思いっきり泣き声を上げようとしたところで、外の騒ぎに気付いた。
慌しく廊下を駆ける音が聞こえ、次に増えた足音が元来た方向へと戻って行った。窓の外からも人の声が聞こえる。
なんだろう、と窓の近くに寄った。

「……た、この養子縁組は不正に行われたものの可能性がある! よって、子供の身柄は……」

聞き覚えのある声。この声は……確か、訓練の時にいたルブランという声の大きいおじさんだ。なんで彼がここに?
フレンではなかったことにがっかりしていると、背後でノックも早々にドアが開く音がした。

「フィナ様。お着替えを」

入ってきたメイドはそう口にするなりクローゼットから勝手にドレスを選び、私に着せた。大分急いでいるようで、彼女の表情は硬く雰囲気もピリピリしていて怖かった。
これでは、何が起きたか訊くに訊けない。
身支度が済むと、強引に手を引かれて部屋から連れ出された。メイドの足は早く、一生懸命足を動かしてついて行った。廊下を進み、階段を下りる。何故だろう。ルブランの声から遠ざかっていく。
廊下の突き当たりにあった小さなドアが開かれると、日の光が差し込んだ。眩しくて思わず目を細める。外だ。このドアは裏口だったのだ。

「あっ……」

先行くメイドが小さく声を漏らした。何があったのだろう。瞬きを繰り返し、何とか目を光に慣らした。メイドの前には、人影があった。背が高くて、頭の毛がトゲトゲしている。

「良かった。入れ違いにならずに済みました」

柔らかで、囁くように優しく、けれども凛々しさと逞しさを併せ持つ声。そして、太陽の光を受けて輝く青い鎧と、金の髪。

「―――!」

目を見開いて彼を見つめると、少しだけ私を見て微笑み、すぐに目線をメイドに戻した。

「私は帝国騎士団小隊長、フレン・シーフォ。直ちにその子の身柄をこちらに引き渡してください」

普段私に向ける声とは全然違う、強い調子で彼は言った。

[#次ページ] [*前ページ]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -