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「けどね、それだけなの。部屋は一人で寂しいし、寝るときも一人。一人で起きても誰も褒めてくれないんだよ。折角ドレスを着ても、誰も何も言ってくれないし」

彼女は最初、怒っているようだったが、次第にその表情は元気を無くしていった。

「私が泣いても、部屋に一人にするだけ。フレンみたいに、心配して、抱っこして、頭を撫でてくれないの」

少女の口がへの字に曲がる。目には涙が滲み、本格的に泣き出すまで秒読みの段階だ。

「フィナ!」

体が勝手に少女を抱き寄せた。すぐに彼女をなだめてあげなくては。彼女を守るのは僕の義務であり、望みなのだから。何故だかそんな想いが雷のようにフレンを打った。
―――――あれ?
ふと、違和感を感じて、フレンは体を一時停止させた。
今、自分はなんと言った?
たった今動かした通りに唇を動かしてみる。それは、小さな小さな女の子の名前。

「フィナ……」

まさかと思い少女を見る。彼女はすっかり安心した様子で、猫のように目を細めておでこをフレンの胸に寄せている。

「私、フレンと一緒にいたい。お菓子がたくさんの貴族の家より、フレンと一緒がいい」

向けられた花の咲いたような笑顔に、幼い少女の顔が重なって見えた。
フレンの脳裏に、フィナと過ごした時間が次々に浮かび上がった。
上手な敬語に、聡く落ち着いた態度と礼儀正しさ。そして、風呂への拒絶反応と時折見せる不審な挙動。それらが全て繋がっていく。そう考えれば、全て説明がつく。
と、彼女がくぁっと大口を開けてあくびをした。

「ふれん、ねむい」
「えっ」

フレンの頭が馬力を上げた。
このまま行くと間違いなく一緒のベッドで眠る事になる彼女のような妙齢の女性と床を共にするなんて許されるはずが無い彼女の両親に顔向けできないいやまて彼女はフィナで今までもずっと一緒に寝てきたじゃないか今更何を言っているんだ自分はフィナと寝る事が許されないなら今までの事も全てあってはならない事だこれはもう責任をとるしか解決方法はないのではないかいやいや5歳児と添い寝する事の何が悪いと言うんだあれは不可抗力というかヒューマンエラーというか起こるべくして起きた過失であって決してやましい事などないんだそれをいったら現状も不可抗力で全て説明がつくのではないかそうだ彼女と寝るのは他に方法がないからで仕方の無い事なんだけれどもしそうなったとして僕は耐えられるのだろうかさっきから騒がしいこの心臓の音を聞く限り本能が理性に勝ってしまう可能性だってゼロじゃないああ僕はいったいどうしたらこんな事ならもっと男の危険性についてフィナに教えておくべきだったかもしれないそうすればこんな風に警戒心皆無で僕の胸にすがり付いて寝息を立てるなんていう迂闊を通り越して従順なペットのような行動をする娘にはならなかったはずだここで誤解して欲しくないのだがこれは決して僕が意図して教育したわけではなく彼女がたまたま素直で純粋な性格だった為に起きた化学反応の結果であって平和と愛らしさの象徴ともいうべき現象とも言える……

そして、夜が明けた。



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