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偶然。フレンとの出会いが偶然。今更言われても、釈然としない。
偶然にするには、色々ありすぎた。彼と出会って経験した出来事、初めて知った気持ち―――それらはまるで予め決められていたかのような……予定日に向けて運命の女神様達が総出で準備をしてついに迎えたお祭り当日のような、そんな、偶然では収まらない一大イベントばかりだった。
そうだ。フレンと出会ったのはきっと――――

『だが、そなたはそれを望んでいないのだな』

そこで言葉を切り、彼は私を上から下までじっくりと眺めた。

『いいだろう。そなたをこの世界へ呼んだのは私のエゴ。ならば、そなたのエゴを叶えるのも道理に適った事だ』

魚のヒレのような、はたまた鳥の羽のような腕を大きく一回羽ばたかせ、彼は天へ飛び上がった。
鯨のような鳴き声が響く。声と一緒に彼の姿も薄くなっていき、遥か上空へと消え去った。
彼が飛んで行ったのではなく、私が落ちていると気付いたのは意識を失う直前の事だった。





「うわあっ!!」

耳に馴染む男性の声と、なにやら硬くて温かい感触。此処は何処、と疑問に思ったが、見えるのは赤みの混じった闇だった。それが光を受けた瞼の裏だと気付くのに、少し時間がかかった。恐ろしく瞼が重くて、動かせなかったのだ。

「……だ、大丈夫かい!?」

声の主に揺り起こされ、頭と体が覚醒していった。目も開けられそうだ―――私は、ゆっくり瞼を押し上げた。
目に入ったのは、明るい金髪。外国人だ。
……って、そうじゃない!!
目の前の人物を判別しようと、神経回路が全速力で頭の電源を入れていく。周囲に人の気配は無い。見慣れた位置に窓があって、そこから月明かりが差し込んでいる。どうやら此処は城の中、帝国騎士に割り当てられる私室のようだ。そして私が今もたれ掛かっているのは、ふかふかのベッドの上……に座る男の人。
冷静に見れば逆夜這いをかけているように見えなくもない状況。けれども私にそんな事を考えている余裕は無かった。

「……フレン」

輝く金の髪、透き通る碧の目。少年っぽさの残る、優しげで精悍な顔つき。
フレン、フレンだ。胸がじんと熱くなった。その熱は体中に伝わって、堪らず彼に抱きついた。伝わる体温と、彼の香りに懐かしさすら感じる。まるで何年も離れていたかのようだった。
彼は何故だかとても戸惑っているようだ。顔を赤くして、何かを言おうと口を開いたり閉じたりしていた。
きちんと耳を傾けてあげたかったが、言いたい事、話したい事は私にも沢山あった。なので彼がちっとも音を発しない事を確認して、構わず口火を切った。

「フレン、あのね―――」



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