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代わり映えのしない毎日が続いた。メイドに世話をされて、豪華な食事やお菓子を貰って、脱走に失敗して、部屋で一人過ごすのだ。
私を引き取ったという貴族が現れた事は一度も無い。一体、何の為に私を引き取ったのだろう。
色々思案してみるものの、相手が現れないのでは確認のしようも無かった。
キュモール伯の屋敷に来てから何日が経ったのか、自分でもよく分からない。何もする事が無い一日は、とても、すごく、長いのだ。
どうしてだろう。綺麗な服も、美味しい食事も、身の回りの面倒な事をしてくれる使用人だっているのに。元の世界にいたときよりも贅沢で至れり尽くせりな、まるでお姫様のような生活なのに。
満たされるどころか、私の心は空っぽだった。

ある日、私は画期的な策を思いついた。策とは、勿論屋敷から脱走するための作戦だ。
早くフレンの許へ戻りたい。
この屋敷から逃げ出して、フレンに会いさえすれば。
そうすれば、彼が私を保護してくれるに決まっている。
私はそう思い込んでいた。
だから、どんな無茶な方法でも疑問を抱かなかったし、迷わなかった。
ただ、必死だったのだ。

ドアの向こうから音がしないのを確認し、行動を起こした。部屋は薄暗く、明かりは窓から差し込む月明かりだけ。それでも問題は無かった。この部屋に、もう用はないのだから。
私はゆっくりと窓を開け放ち、外を確認した。予想通り、見回りの騎士はいない。私の部屋からみえる庭周辺はあまり重要な場所ではないようで、夜は見回りが無いのだ。
これならいける。
何もかもが上手くいく未来が見えた。気分が高揚して、肌寒い空気も気にならない。私は窓枠に足をかけ、足を窓の向こうへ出した。手で縁をしっかり握り、滑り落ちないように注意して、体全体を窓の外へ出した。
この窓の下には、足を掛けられそうな段差がある。まずはそこに足をかけて、そしてまた手を掛けてぶら下がり、下の窓へ―――それを繰り返せば、地面に着く。
計画は完璧だ。けれど、いざとなると弱い自分が邪魔をした。
段差に足をかけるには、今窓に引っ掛けている手を離さなくてはならない。着地するスペースは私の足のサイズギリギリで、下手をすれば踏み外してしまいそうだった。
怖い。
今更恐怖心が湧き出した。体全体が萎縮して、筋肉が固くなる。
こんな無茶なことはしないで、大人しくフレンの迎えを待っていた方が良かったかもしれない。そんな気弱な考えが浮かんだが、もう後戻りは出来なかった。私の腕の力では、再び元の位置へ這い上がる事はできないのだ。

「フレン……」

小さく彼の名前を呼んでみる。当然、望んだ助けは来ない。
窓枠に掴まる手も、限界が来ていた。
―――戻れないなら、進むしかない。
私は覚悟を決め、手の力を緩めた。

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