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キュモール隊は全員が貴族で構成されている。非常にプライドが高く派手好きな、騎士としてはいささか問題のある集団だ。彼らの自尊心を満足させるために、フィナが利用されたらしい。フレン小隊に向けられていた羨望の眼差しが、今日からは彼らに向けられるだろう。
フレンはビラを読み進め、ある一文に目を留めた。表情が僅かに歪む。

「『先日の評議会にて、めでたく養子に認められた』……」

帝国貴族法第四編、三章二節―――貴族の地位に在る者が養子縁組をするには、評議会の許可を得なければならない。
先程確認した書物の記述が頭に浮かぶ。フィナの養子縁組は、法的に正式なものとなったようだ。

「見つけたよ、フレン小隊長」

噂をすれば。高いヒールの音を響かせて、キュモール隊長が現れた。彼はたった今戦いに勝利した将軍のように、自信に満ちた態度でフレンと向き合った。
フレンは今にも噛み付きそうなソディアを片手を上げて制し、あくまで冷静に、むしろ機械的な感情の無さで「なにか御用でしょうか」と彼に尋ねた。

「これを返しに来てあげたんだ」

彼が片手で差し出したのは、青地に白のラインが入った布――――

「これは!」

ソディアが身を乗り出した。フレンも、それが何かすぐに分かった。フィナが着ていた、フレン小隊のマントだ。

「もう耳に入っているかな? あの子は正式にキュモール家の養子になったよ。縁者のよしみで、恐れ多くも僕の隊のマスコットに任命してあげたんだ。これからはもっと上質なデザインのマントを着せてあげるのさ」

フレンは相槌を打つでもなく、無言でそれを受け取った。キュモールは喋ることに夢中で、フレンの様子にはまるで興味が無いようだった。

「元平民なだけあって下品で可哀想なオツムをしてるけど……まあ、それは僕が何とかしてあげるよ。まだ子供だからね。今のうちに教育すれば、少しは貴族らしくなれるはずさ」

フレンは、自分の中に憤りが重なっていくのを感じた。

――――フィナは人形じゃない。生きた、まだ年端もいかない小さな女の子だ。フィナに、お前達の勝手な思想を押し付けようとするな。彼女はまだ幼いだけで、聡明な子だ――――

胸の奥から湧き上がってくる激情を、必死に押し止める。ここで反論したところで、自分にも、フィナにも良い事など無い。相手は曲がりなりにも隊長格なのだから。
フレンはこの場で一番賢明な対応を考え、それを実行した。

「キュモール隊長。フィナの事……よろしくお願い致します」

小隊長、とソディアが悲壮な声を上げる。
フィナの扱いが、少しでも良くなるのなら。その一心で、フレンは頭を下げた。
外聞など気にならない。たとえ尊敬のできない人間が相手でも、今大切なのは自分のプライドではない。フィナだ。知らない屋敷に一人連れて行かれ、寂しい思いをしている彼女に、これ以上辛い思いはして欲しくなかった。

今の僕は、フィナを守ってやれないのだから。
                                        

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