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フレンがトランプに手を伸ばした。ジョーカーの上で指が止まったかと思うと、隣のカードに移動する。そんないかにも迷っているような動作をされたら、ジョーカーを引くかもしれない、という希望が捨てられない。
カードを選んでいる最中、何故かフレンはカードよりも私の顔をじっと見つめていた。

「よし、これだ」

明るい声と共にフレンが引き抜いたのは、黒の………ジョーカーだった。

「!?」

驚いている間に、彼はジョーカーを自分の手に加えてしまった。

「ああ、しまった」

そう言って、困った顔で笑う。

「あー!フレンがババ引いたー!」

テッドが嬉しそうにはやし立てる。信じられない気持ちで自分の手札を見た。残っているのは赤いマークのカード。
フレンは私には見えないように、手で隠しながらカードを切った。彼の手はカードを隠してしまえるほど大きい。

「さあ、どーっちだ?」

二枚のカードが床に伏せられた。どちらも全く同じに見える。
もしかして、もしかしたら、勝てるかもしれない。そんな予感に、鼓動が早くなった。
もう一度、カードを隅から隅まで眺めた。どう見ても同じ。いくら見ても、裏面が透けて見えたりはしなかった。
今のフレンは私を見て嬉しそうにニコニコしている。この余裕、まさかイカサマで両方ジョーカーなんじゃ……と被害妄想が膨らむが、正義と法と公正大好きなフレンがそんな事をするわけが無い。
私は覚悟を決め、一枚のカードを捲った。
現れたのは、赤い色。

「……やったあ!」

手元のカードと合わせて、山場に投げると同時に立ち上がった。今すぐ走り出したいくらい嬉しい。フレンは「参ったな」と頭を掻きながらジョーカーを拾い上げた。

「ビリはフレンに決定!」

テッドが容赦なく指を刺す。ユーリは「お疲れさん」とねぎらいながらカードを片付け始めた。
勝ってしまった。フレンに勝てるなんて思わなかった。まだ高揚した気分が収まらず、そわそわと周囲を見回すと、フレンと目が合った。
彼は自分が負けた事なんて全く気にしていない様子で、微笑みながら私に向かって両手を広げた。
すぐに彼の元へ走った。彼の両手は私を捕まえ、高く高く空中に掲げた。予想通りの開放感の訪れに、「きゃはは」と笑い声を上げた。

「フィナ、おめでとう」

「うん!」

私達の様子を見ていたテッドが、あきれた調子で言った。

「ババ抜きでこんなにはしゃぐなんて、フィナって子供だね」


***

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