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こちらを見て笑う、黒くてツノのある人間のようなシルエット。
何処の世界でも変わらない、ちょっと邪悪で憎らしいキャラクターの絵が描かれたカード。そう、

「あっ」

私が見つめる先で、さっきまで彷徨っていた指先が一枚のカードを引き抜いた。残ったのは赤いマークが描かれたカードが一枚と、黒いマークのカードが一枚、そして黒いキャラクターのカード。そう、ジョーカーだ。
ムッとした気分でカードから目を離した。どうしてジョーカーを引いてくれないんだろう。顔を上げた先には、得意げに口角を吊り上げる長い黒髪の男性がいた。

「へへ。上がり、っと」

彼はスナップをきかせた指先で、二枚のトランプを中央の山に捨てた。スペードのエースとハートのエース。綺麗に決まり過ぎていて、なんだか腹立たしい。

「残りはフレンとフィナだよ」

テッドがえへんと胸を張って言った。彼は一番最初に上がったのだ。本当は年下のテッドに負けるだけでも嫌な気持ちなのに、ビリにでもなったら……。
私は闘志を奮い起こしてフレンを見た。絶対に負けるものか!
彼は私の表情を見て驚いたように目を見開いた。けれどすぐに木漏れ日のような笑顔になって、「はい、どうぞ」と自分のカードを差し出した。
彼の手持ちは二枚。私は三枚。私の手にジョーカーがあるのだから、どっちを選んでもペアができる。折角気合を入れたのに、全然意味が無かった。
気を挫かれて、やる気の無い動作で適当なカードを引き抜いた。思ったとおり、ペアが一組できた。
それを山に捨てて、「はい」とフレンに手を差し出した。きっとフレンがジョーカーを避けて上がってしまうに違いない。そんな諦めが私の中で大きくなった。
フレンは再び私の表情を見て、残念そうに眉尻を下げた。

「フィナ」

「なあに」

「まだ負けたと決まった訳じゃないよ」

「でも、フレン強いよ。きっと、私の負け」

「そんな事無いよ。まだ分からない」

確かに私が勝つ可能性は残されている。それは分かっている。けど、フレンが勝つ可能性の方が遥かに高い。私にはフレンに勝てる強運や、テクニックは無いのだから。日ごろの行いだって、フレンの方が遥かにいい。

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