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ケーキを丸ごと独り占め。とっても素敵な考え方だ。ユーリへの苛立ちも気にならなくなって、フレンへ笑顔を返した。
フレンが小皿とフォークを用意する間、何故かユーリはコップに水を一杯用意して、どっかと椅子に腰を下ろした。何故か私のすぐ隣の席だ。

「フィナ。手を出しちゃだめだからね」

そう言って、フレンはお湯につけていた包丁をケーキの上に浮かべ、狙いを定めた。包丁を温めると、ケーキが綺麗に切れるのだ。
彼はまん丸だったケーキをキッチリ8等分にし、そのうちの一つを私の目の前にあるお皿に乗せた。イチゴにクリームにストロベリーソース。全部がきちんと乗っかっている、一番綺麗なやつだ。

「うわあ」

「さあ、召し上がれ」

勧めるフレンの声も嬉しそうだ。
早速得物のフォークを手に取り、二等辺三角形の先っぽの、一番尖った部分を小さな三角に切り取った。

「いただきます」

フレンとユーリの視線が集まる中、ケーキを口の中に入れた。

「…………」

「どうかな」

期待の篭った視線が容赦なく注がれる。澄んだ浅葱色の瞳は、陽光を受けて輝く水面のようにキラキラして、悪意は欠片も感じる事ができない。頬はほのかに赤みが差して、期待の大きさが窺える。
フレンは待っている。私が「おいしい」って、嬉しそうに笑うのを。そうだ。彼は私の笑顔を見るために、ケーキの材料を用意して、量って、泡立て器を振るって、オーブンを準備して、クッキーまで焼いて、彼にとっては禁忌に触れるくらいのメッセージを書いて、綺麗に飾り付けをして、お皿もフォークも用意して……
そうなんだ。このケーキはフレンの気持ちが一杯詰まった、世界で一つだけのケーキなんだ。これ以上に美味しいものなんて、無い。

「おいしい」
まずい。

口の中はとんでもない事になっていた。あらゆる洗剤をミックスしたような、よく分からない風味が鼻に抜けて気分が悪い。これは食べ物じゃない、と脳が警報を発している。それなのに胸は、今まさに浮かんだばっかりの、少年みたいなフレンの笑顔の所為で幸せいっぱいなのだ。毒の沼状態の口とヘヴン状態の胸の内がちぐはぐで、私の頭と神経回路は大混乱だった。

「良かった。さ、たくさんお食べ。このケーキはフィナのために作ったんだから。今日は好きなだけ甘い物を食べていいからね」

彼の笑顔は慈愛に満ちて、声も囁くように柔らかくて温かい。私の言葉を心から喜んでいるのが分かる。
もう後に引けない。どうしてこうなったのだろう、と周囲を見渡せば、隣で目を剥いているユーリがいた。

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