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端に手を掛け、爪先立ちをしてテーブルの上を覗くと、そこには白いものが乗っていた。
「なあに、これ」
「フィナのお誕生日ケーキだよ」
「誕生日?」
わけが分からずフレンを見上げた。私の誕生日は今日ではない。というより、分からない。この世界の暦は日本の暦と全く違っていて、私の誕生日がこの世界の何月何日に当るのか分からないのだ。
「今日は私の誕生日じゃないよ」
「ふふ、そうだね」
フレンがケーキの真ん中に大きなココアクッキーを乗せた。それにはホワイトチョコレートで文字が書かれていて、文章の中には私の名前がある。多分、『フィナちゃん、お誕生日おめでとう!』みたいな事が書いてあるんだろう。
「ねえ、違うよ」
「違わないよ。今日は、僕とフィナが初めて会った日だよ」
フレンの言葉にはっとした。私がこの世界に来てから、もう一年が経ってしまったのだ。長いような、短かったような。私はこの一年、何をしていただろう。
ぼんやり時の流れに思いを馳せていると、体が宙に浮いて、次の瞬間にはフレンの腕の中にいた。
「今日はとっても大事な記念日だ。だから、フィナの誕生日」
「私の? いいの?」
「うん」
勝手に誕生日を決めてしまっていいものなのか、とか、そんな風にフレンが大切に思っている日を貰ってしまっていいのか、とか、色々と考えが浮かんだが、フレンが迷い無く頷いたので私のモヤモヤも消え去った。そして、代わりに嬉しさが胸いっぱいに広がった。
「フレン、ありがとう」
今日は、私の誕生日なんだ。そう考えるだけで、なんだかワクワクとしてくる。
彼の首に腕を回して抱きつくと、温かな笑い声が耳のすぐ近くで聞こえた。
「さあ、ケーキが出来上がったよ。僕からの誕生日プレゼントだ」
フレンに抱っこされたまま、上からケーキをうかがった。白くて円い台座の上に、イチゴとクリーム、そしてストロベリーソースで飾りつけがしてある。まるで有名パティシエが作ったように綺麗で、とってもおいしそうだった。
「すごい。ケーキ屋さんみたい」
「ふふ、喜んで貰えて嬉しいな」
フレンの手が私の頬にかかった髪を払う。そして、頬に温かいものが触れた。
「?」
何だろう、と頬に触れて確認してみるが、もうそこには何の痕跡も残っていない。原因を探してフレンを見上げると、悪戯ぽい笑みが返って来た。
「なあに?」と問いかけてみるが、「なんでもないよ」とはぐらかされてしまった。
「昼間っからお熱いことで」