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「部屋のものはどうぞご自由に。全て貴方のために用意されたものでございます。それでは、御用の際には遠慮なくお呼びください」

彼女は無駄の無い動きで、あっけなく部屋から姿を消した。
拍子抜けした私は、呆然とその場に立ち尽くした。
無理矢理知らない家に連れてこられたと思ったら、用意された部屋に一人置き去り。何かされるわけでも、させられるわけでも無い。むしろ、色々してもらって至れり尽くせりだ。
折角なので、バスケットの中からチョコレートを一つつまんで口に入れた。日本のお菓子のように、甘くてまろやかで美味しかった。
口をモゴモゴさせつつ、部屋を検分する。棚や机の引き出しの中身は空っぽで、いかにも急ごしらえな雰囲気だ。あるのはクローゼットの服と、ぬいぐるみと、花瓶に刺さった花くらい。
特に面白いものは無かったので、中央のテーブルに添えられたソファに腰掛けた。

―――フレンは、いつ迎えに来てくれるのだろう。

そう思いながら窓の外に目をやった。今日は薄い雲が漂う晴天だ。
あの強引で気色悪い騎士に押されて連れてこられてしまったが、私は養子の話を受け入れた覚えは無い。むしろ、聞いたことすらない。だから、すぐに連れてきたのはあの騎士の早とちりだったと分かるはずだ。真面目で決まり事に厳しいフレンのこと、きっと抗議して私を迎えにきてくれるはず。
彼は、私を守るって約束してくれたんだから。
自分でも意外なほど落ち着いていた。この状況は一時的なことで、すぐにフレンがなんとかしてくれる。そう、すんなり信じられた。
そう、フレンなら、絶対―――

けれどもその日、迎えは来なかった。
メイドに呼ばれて一人で晩御飯を食べ、メイドに世話をしてもらいながらお風呂に入った。
私を引き取った張本人にすら会えなかった。その人に会えたら、養子を断る旨を伝えようと思っていたのに。

「あの、私、フレンの……フレン小隊長の所へ戻りたいです」

「そのお話は旦那様にお願いいたします。私どもには権限がありませんので」

メイドや執事相手では、埒が明かない。かといって、勝手に家から出ようとすると止められて部屋に戻されてしまう。
ベッドの羽毛布団はフワフワと柔らかで大きかったが、何故かスースーして落ち着かなかった。

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