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見知った後ろ姿を見つけ、ユーリはその部屋の窓に飛び移った。中の様子を窺うと、部屋の主は何をするでもなく呆然とただその場に突っ立っている。
―――何をやってんだ、あいつは。
構わず窓を開け―――鍵はかかっていなかった―――、「邪魔するぞ」と一声かけて部屋の中へ飛び降りた。
「ユーリ」
突然の訪問にも関わらず、フレンの声に驚きは含まれていなかった。ただ、陰りが見えるばかりだ。
幼馴染の反応に違和感を感じたものの、ユーリは構わず自分の用事を優先した。話を聞いて欲しいなら、向こうから話して来るからだ。わざわざユーリから水を向けるような、そんな気を使う関係は二人の間に無かった。
「これ、おかみさんがフィナにだと」
言いながら抱えていた紙袋から一枚、服を引っ張り出して見せる。赤い小さなTシャツ。他にも、袋の中にはお古の子供服が沢山つまっている。
「次、いつ下町に来るのか分かんねーからさ。おかみさんが持って行けってうるさくて」
「それで、わざわざ届けてくれたのかい」
ありがとう、とフレンは袋を受け取った。しかしまだ、その声も表情も曇っている。
「『古いから、気に入らない服があったら遠慮なく捨ててくれ』ってよ」
「そうか」
そこで、ようやくユーリはもう一つの違和感に気付いた。部屋を見回し、視線をフレンに戻す。
「フィナはどうしたんだ?」
ほぼ四六時中、文字通り肌身から離さず連れ歩いている幼い少女を思い浮かべ、ユーリは首を傾げた。フレンならば、そう簡単にフィナを離したりしないはず。入浴中かとも思ったが、以前「風呂も一緒に入る」宣言をしていた事を思い出してその予想はかき消された。
ユーリは、フレンの憂いの核心を突いた事に気付いていなかった。本当に、何の気なしに気軽に尋ねたのだ。それ故、返って来た沈みきった声に、ユーリはしばらく呆然と目の前の親友を見つめる事しか出来なかった。
***
きらびやかな内装に目を見開いた。
私の部屋だというそれは、エステリーゼの部屋と同等の豪華さだった。さすがに広さでは敵わないが、白い壁紙とパステルカラーの家具、そしていたるところにあしらわれた金色の装飾が眩しい。けれども子供部屋らしい大小あらゆる種類のぬいぐるみが窓際やベッドサイドに並び、部屋の中央に置かれたまあるいテーブルには、お菓子がしこたま盛られたバスケットが載っている。
「お召し変えなさいますか?」
そう言って、メイドが部屋の隅にあるクローゼットを開いた。中には色とりどりの子供用ドレスが並び、一見すると虹のようだ。どれもフリルの多いデザインで、私には少し抵抗があるものだった。
どうするのか、目で訴えてきたメイドに首を振って答えた。彼女は表情を動かさずに、静かにクローゼットを閉めた。