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ページを捲る音が静かな部屋に染みる。彼女の保護を知らせた時とは違い、アレクセイはこの件にまるで興味が無いようだ。
その落差に疑念を持ったシュヴァーンは、無意識に「よろしいのですか」と尋ねていた。
「なんだね?」
「騎士団で保護するほどの人物だったのでしょう」
何、とアレクセイは口角を引き上げた。本をたたみ、元の場所へ戻す。
「目の届く範囲にいれば良い。フレン小隊長には申し訳ないがな」
***
「なんだい、この貧乏臭い部屋は!」
ノックも早々に踏み込んできた騎士は、部屋を見回してヒステリックな叫び声を上げた。
灰色の長い髪をオールバックにし、藤色を基調にした鎧は何故か大事なはずの胸元を開けていて気色が悪い。
変質者だ。
私は咄嗟にそう判断し、フレンの後ろに隠れた。
変質者はずかずかと部屋の真ん中まで進み、「信じらんない」と部屋の文句をまだ言っていた。
「何か御用でしょうか、キュモール隊長」
フレンはベッドから立ち上がると姿勢を正し、礼儀正しく彼に問いかけた。
どうやら彼は騎士で、しかも隊長だったらしい。
信じられない気持ちで、もう一度キュモールと呼ばれた男を見た。この特徴的な鎧は隊長故のものだったようだ。
「アレクセイから話は行ってると思うけど、伯父上が君のところで保護してる娘を引き取るそうでね。僕が受け取りに来たよ」
「なっ……まだ私どもは返事をしていません!!」
大きな声に、体がビクリと震えた。
一体何が起こっているのだろう。誰かが私を引き取る、そんな話が私の知らないところで、勝手に進んでいた?
寝耳に水の事態に、私はただ、呆然とその場に立ち尽くした。
「うるさいなあ。貴族になるのを断るなんて、そんな馬鹿な事あるわけないだろう? 泣いて伯父上に感謝するんだね」
「まだ本人の意思を確認していないのです。引渡しは、その後に……」
「だーかーら、確認しなくても分かるだろ! 小隊長ごときが、僕に意見するんじゃない!」
なんて勝手な人だ。
ぽかんとキュモールを見つめていると、彼の目が私に向いた。
「ああ、この子だね。ふん、まあ下民にしてはマシかな」
赤い目が嫌らしく細められる。背筋に怖気が走った。
キュモールがドアの方を向いて「おい!」と呼びかけると、同じ配色の鎧を着た騎士が二人、挨拶も無しに部屋へ入ってきた。
「そこの小娘を連れて来い」
「ま、待ってください!!」
「黙れ、下民!! ほら、さっさと連れてくよ!」
「フィナ!!」
騎士に抱え上げられた私へ、フレンが手を伸ばす。
けれどその手は、途中で止まった。
「フレン!!」
我に帰って彼の名を叫ぶ。
私の声に、彼が答える事は無かった。