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異世界から来た事を告白して以来、そのことについて二人が話すことは無かった。
フィナは話さなかったし、フレンも尋ねなかった。たまに、話の流れで触れる程度だ。
彼女の場合は新しい世界への驚きが大きく、元の世界を思い出す暇が無かったから。彼の場合は元の世界の話を聞きだすことで、里心がつくのではと心配したからだった。
なんにせよ、今まで無かった事にフィナは目をぱちぱちとさせた。

「むこうには、フィナの本当の家族がいるんだよね」
「うん」
「友達も」
「うん」
「そっか。じゃあ、早く……帰りたい、よね」

分かりきっていたことだ。そうフレンはうな垂れた。

「フレン?」

体を捻り心配そうに見上げてくるフィナを、フレンは無言で抱きしめた。
胸中は荒れていた。引き取り手が現れなかったとしても、自分がフィナに選ばれる事は無かったのだ。心臓は釘を打たれたようにのたうっている。襲い来る喪失に怯えているのだ。
『この子を手放してなるものか』―――そんな想いが押し寄せる。
フレンは頭を振った。頭の中でひしめいている自分の想いを追い出し、別の事を考えるスペースを空けるために。
その行動は功を奏し、フレンの中に冷静で公正な判断力が戻ってきた。
自分の気持ちだけを考えてはいけない。優先すべきは、フィナの幸せ。フィナの幸せを考えるなら―――



***



「養子? 貴族の家に、ですか」

意外な知らせに、シュヴァーンは純粋に驚いた。
貴族というのはえてしてプライドが高く、血筋に拘る傾向がある。だのに、何処の馬の骨とも知れない孤児を養子として引き取るとは。めったに無い出来事だ。

「恐らく、彼女を使って皇族に取り入るつもりなのだろう。熱心な事だ」

アレクセイは壁際の本棚から分厚い本を一冊引き抜き、ページを捲った。シュヴァーンには分からない、魔導器の専門書だ。

「皇族……?」

「彼女は時期皇帝候補たるお二人のお気に入りなのだよ」

なるほど、政治の道具だったかとシュヴァーンは納得し、同時に同情の念を抱いた。
恐らく幸運なこの申し出に、あの小隊長共々無邪気に喜んでいる事だろう。純粋そうな二人故、胸が痛む。
しかし、衣食住が保障されるのは確か。それほど悲観する事も無いかとシュヴァーンは考え直した。

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