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差し出されたのは大人サイズで紺色の、袖の無いチュニックだった。早速着替えることになったのだが、当たり前のようにフレンが手助けを買って出た時には言葉を失った。
今の私はお父さんと一緒にお風呂に入っても問題ない年頃かもしれない。けれど、会って間もないほぼ他人の男の人に裸を見せるなんて。
ちょっと、それは、どうなのだろう。
と思ったものの口には出せなかったため、彼の手によって着替えは問題なく終わった。
「ボタンは下からかけるんだよ」と保育士のようなことを言っていたので、単純に子供の世話に慣れていたからかもしれない。やはり服の丈は長かったので、大人用のベルトを和服の帯のように使って調節した。
「どうですか」
おかしいところはないだろうか。
くるりと一回転して見せると、フレンとソディアは顔を綻ばせた。
可愛らしさで人の顔をとろけさせた事なんて、今までに一度も無い。なんだかこちらが照れてしまう。
「可愛いわ」
「似合っているよ」
着ていたブラウスはソディアさんが保管してくれることになった。
帝都までは馬という名の、私の知ってる馬とは違う動物に乗って行くらしい。どちらかというと恐竜のような顔の動物だった。
「フィナ、おいで。」
呼ばれてフレンの傍へ駆け寄る。彼はぬいぐるみでも持ち上げるように軽々と私を持ち上げ、鞍の上に乗せた。
突然馬に乗せられて固まっていると、すぐ後ろに彼も乗った。
「小隊長!フィナは私が……」
「私が乗せていくよ。そうだな……次の休憩の時に交代しよう」
「わかりました」
ソディアは頷くと、自分の馬のところへ戻っていった。
小隊長、という役職の地位はよく分からないが、ソディアより上なのだろう。そのわりに、私に構ってくれるし彼女に対しても偉ぶっていない。今の所、私の目に映る彼は「とっても良い人」だ。
「怖い?」
私の視線に気付いて、彼はそう尋ねた。
「ちょっと」
「大丈夫。僕が支えるから、落ちたりしないよ。でも、ちゃんと掴まっててね」
「はい」
「いい子だ」
大きな手が私の頭を撫でる。
温かな帽子を被ったような、毛布を頭から被ったような。でもそれよりも温かく、ほっとする感覚。
胸に彼の手と同じぬくもりが宿った。不思議と幸せな気分だ。
「さ、行くよ。前を見て。」
他の人々は既に隊列を組んでいた。一糸乱れず二列等間隔に並び、フレンが加わるのを待っている。
彼らが向く先には心もとない寂れた道と森が続き、遥か遠くには切り立った崖や山が見える。
目的地の帝都がどのあたりにあるのか、見当もつかない。
そこまでの道のりも、これからどうなるのかも、私には分からないのだ。
それでも不思議と不安は無かった。
この人がいるなら、大丈夫。
背中にあたたかさを感じながら、何故か私はそう思っていた。