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フィナがフレンに恋をしていると判明したのは、つい先日のことだった。
小さな体と心で、一丁前に人を好きになったのだ。しかもその相手が自分となれば、その喜びは計り知れなかった。
『初恋は実らない』というのは本当なのだなと憐れに思ったが、所詮幼い恋。時間と共に色々な気持ちは風化していくだろう。
フレンはフィナの恋を温かく見守って行くつもりだった。いずれ別の恋を見つけるまで。
だが、こうも早く見つかる可能性は考えていなかった。
まだ本人に聞いていないので未確定だが、子供はプレゼントに弱い。食べ物にも弱い。
フィナはヨーデルにプレゼントされたドレスを着て、食事会では大好きな甘い物を思う存分楽しんだ。
鞍替えする可能性は大いにある。

「私、ヨーデルさん好き」

とサラッとのたまう様子が安易に想像できて、フレンは胸が焦げ付くような思いに襲われた。
紛う事なき嫉妬だった。

しかし、彼の嫌な予感が現実になるのは、この後だった。

翌日、騎士団長に呼び出されたフレンは執務室の扉を叩いた。

「フレン・シーフォ、参りました」

騎士団長アレクセイは手を止め、読んでいた書類を机の上に置いた。

「うむ。待っていたぞ」

「本日はどのようなご用件でしょうか」

「それなのだが」

君にとっては寂しい知らせになるな、と、アレクセイは意味深に声のトーンを落とした。

「何か?」

「フィナ君の事なのだが……」

それは、ある意味ではとても幸運な知らせだった。
そして、ある意味ではとても辛い知らせだった。

フレンは執務室の扉を閉め、茫然自失で廊下を歩いた。
頭の中では、アレクセイの言葉が繰り返されている。

『知っての通り、先日行われた食事会で、フィナ君の評判は大変良かった。これもフレン小隊長の教育の賜物だ』

折角の褒め言葉も心を震わせない。
中庭沿いの通路に出ると、そこには庭を眺める為のベンチが設置してあった。
フラフラとそのベンチに腰かけ、ぼんやりと花を眺めた。その中の一つ、ピンク色の小さな花に目が止まる。

『食事会でフィナ君を見たある貴族が、彼女を非常に気に入ってね。身寄りが無い事を知って、是非引き取りたいと―――』

貴族。
数々の特権が用意され、望めば国の要職に就くことができ、一生食べ物にも、住む所にも困らない。
―――夢のようじゃないか。
フィナの身の安全も、幸せも、全てが保障される。
彼女が、貴族になれば。

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