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「フィナ。来てくれたんですね」
翠の目を細め、ヨーデルがふんわりと微笑んだ。
彼はいかにも重鎮といった様子の、ヒゲのおじさんと話をしていた。私の姿に気がつくと、彼はトコトコと私に歩み寄り、腰を屈めて上から下までとっくりと検分した。
「思ったとおりです。とてもよく似合っていますよ」
そう言って微笑む彼は嬉しそうだった。面と向かって褒められるのは、なんだか照れる。
恥ずかしくなってフレンの足に体を寄せると、「フィナ、ちゃんとお礼言わないと」と注意されてしまった。
しぶしぶペコリとお辞儀をし、「……ドレス、ありがとうございました」とお礼を言った。
「どういたしまして。可愛く着て下さって、とても嬉しいです」
「この度は、お招きありがとうございます」
フレンが普段の柔らかい声とは違う、凛と締まった声で挨拶をした。
何か話している二人を尻目に、会場を見渡した。
高い天井とつるつるの広い床。そこに立っているのはほとんどが綺麗で高そうな服を着た貴族達だ。その中に、(警備中なのか参加中なのかは分からないが)騎士がちらほらと混じっている。
詳しくは聞かなかったが、この集まりは何かを記念した食事会らしい。ヨーデルがくれた白い箱の底に、この食事会の招待状があったのだ。
『是非このドレスを着て、食事会に参加してください』と。
招待状を見たフレンは仰天して、「どうすれば……」とうろたえていたが、居合わせたソディアが助言をしてくれた。彼女は貴族の出身だったのだ。
「この食事会はあまり格式ばったものではありません。それこそ、フィナのような小さい子を連れてくる参加者もおります。参加者数も厳密に決められておりませんので、同行者を連れて行くことができます。小隊長が保護者として同行しても問題ありません」
「そ、そうか……服は、ドレスコードはあるのだろうか」
「是非小隊長のスーツ姿を……と、言いたい所ですが、騎士の正装で来る者もいましたね」
「そうか。よかった……」
「私も同行しましょうか?」
「いや。そこまで君に迷惑をかけるわけにはいかない。二人でがんばってみるよ」
と、いうわけで。
私とフレンは生まれて初めて、貴族の集まりに参加しているのだ。
会場は立食パーティの様式で、白いテーブルクロスがかかった丸テーブルが点在し、豪華な食事を提供している。
「ヨーデル! まあ、フレンとフィナも!」
可愛らしい声に振り向くと、目を輝かせたエステリーゼが私に向かって突進している所だった。
「なんて可愛らしいんです!? フィナ、この服どうしたんです? とっても可愛いですよ!!」
「僕が彼女にプレゼントしたんです。なかなかでしょう?」
「そうなんです? さすがヨーデルです!」
二人は知り合いなのだろうか。エステリーゼに抱きつかれながら二人を見比べた。
「エステリーゼ様とヨーデル様は、いとこ同士なんだよ」
私の不思議そうな顔に気付いたのか、フレンが説明してくれた。
言われて見れば、二人は同じ翠の瞳をしている。