□2
[ 112/156 ]
「わあ、可愛いね。フィナ、折角だから着て……」
「やだ」
「どうして?」
「やなの!」
「折角ヨーデル殿下から賜ったんだ」
「や!」
「フィナにとっても似合うと思うな」
「いや!」
「一体、何が気に入らないっていうんだ?」
嬉しそうなフレンの顔がしょんぼりしていくのを見て、申し訳ない気持ちになる。
だからといって、このドレスを着こなせる自信は無かった。
「じゃあ、こっちならどうかな?」
フレンが私に見せたのは、ドレスと一緒に入っていたらしい花飾りだった。大きい桜の花のような形をしている。
「可愛い」
「よし、じゃあ付けてあげるね。じっとして」
「うん」
フレンの手が私の髪を掬う。ぱちんという音がして、髪が少し引っ張られる感じがした。
「うん! とっても可愛いよ、フィナ」
フレンは少し興奮した様子で頬を染め、満面の笑みを浮かべた。
思わず私の顔も熱くなった。自分の姿を確認しようと、急いでクローゼットの方へ駆けた。クローゼットのドアの裏側には、姿見がついているのだ。
鏡を覗き込むと、地味だった私の黒髪に明るいピンクの花が咲いていた。
自分で言うのもなんだけれど、結構、可愛い感じだ。
じーっと鏡を見つめていると、後ろからフレンが「気に入ったかい?」と嬉しそうに尋ねてきた。
「お洋服も着れば、きっともっと可愛くなるよ」
そう言って後ろでドレスを構える。
なるほど。彼の目的は髪飾りを足がかりにして私にドレスを着せる事だったらしい。
ピンクの花飾りが意外と似合ったので、確かにドレスを着ることへの抵抗感も薄れていた。
けど。
「ドレスはいい」
「そんな……きっと可愛いよ」
「いーの」
「僕はフィナがこのドレスを着ているところが見たいなあ」
「……」
期待の篭った瞳で見つめられ、私の意地がぐらつく。しかし、ドレスに目を移せばあまりのきらびやかさに再び抵抗感が湧き上がる。
「やっぱりイヤ!」
フレンの前から逃げ出すと、何故か彼はドレスを持ったまま追いかけてきた。
「待ってくれ! ちょっとだけ! ちょっとだけでいいんだ! すぐにいつもの服に着替えて良いから!」
「やー!!」
椅子の下を潜り、ベッドを避け、ドアの前で方向転換、また椅子の下を通る。歩幅の違いで、距離はあっという間に詰められた。
こうなったら机の下に立てこもるしかないかもしれない。問題は、椅子の防壁があっという間に撤去されてしまう事だ。
「あっ」
踏み出そうとした足が床に着かず、ふわりと体が宙に浮いた。
「つかまえたよ。鬼ごっこは僕の勝ちだ。さあフィナ。ドレスに着替えようね」
いつの間にかそういうルールになっていたらしい。
「さ、万歳して」
「や!」
捲り上げられた服を何とか押し止めようと、脇をしめて抵抗を試みた。
「あまり抵抗すると服が伸びてしまうよ」
彼は簡単に私の片腕をもちあげ、袖を抜いてしまった。すぐにもう片方の腕にも取り掛かる。
「いーやー!」
「ほら、観念するんだ―――」
コンコン。ガチャ。
「失礼します。小隊長、時間が過ぎておりま……」
ソディアがドアを開けた格好のまま、私達を見て固まった。