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「こちらはフレン小隊長のお部屋で間違いないでしょうか」
「はい。そうです」
朝早く、見慣れないメイドが部屋のドアを叩いた。微かに、普通のメイドよりも上品な感じがする。
対応したフレンも不思議そうな様子で彼女を見る。彼女の手には、バスタオルのセットでも入っていそうな、大きな白い箱があった。
何だろうと思ったが、私はまだ着替えの途中だったので人前に出られなかった。上は肌着一枚なのだ。机の下に隠れて様子を見守ることにして、じっと息を潜めた。
「これをフィナ様にと。ヨーデル殿下のお心でございます」
「……っ!? 殿下から!?」
フレンのただならぬ様子に、ドキドキと鼓動が鳴った。
ヨーデルはこの前会った男の人の名前だ。殿下、というのは確か、王子や王女などの王様に近い偉い人につける敬称。
あのキルサンタスの花壇で会った彼は、実はすごく偉い人だったようだ。
その後いくつかフレンが質問をして、メイドがこともなげにそれに答えるという会話が二つ三つ交わされた。最後に彼が箱を受け取ると、メイドは優雅に一礼してから去っていった。
「フレン、なんだったの?」
「フィナ……一体いつヨーデル殿下とお知り合いになったんだい?」
彼はとても困惑した様子で私を見た。受け取った箱を机の上に置き、椅子の背に掛かっていた私の上着を取る。
「はい、万歳して」
言われて両手を挙げて万歳すると、上着を頭からかぶせられた。袖が通り、頭を出す、と
「ねえフィナ。ヨーデル殿下とは何処でお会いしたのかな?」
息の掛かる距離にフレンの憂い顔があった。思い切り心臓が飛び跳ねる。相変わらず彼の瞳は、海のように透き通っていて綺麗だ。
「中庭に、行く途中」
「中庭? という事は昼休みにかい?」
「うん。でもお話しただけだよ」
フレンは顎に手を添えて少し考え込んだ。そして、「あの時か……」とポツリと漏らした。
何を貰ったのだろう。箱の中身が気になって、じっと机の上を見上げた。
「開けてみようか」
彼の提案に頷いた。早速椅子の上によじ登り、膝立ちで箱を覗き込んだ。真っ白だと思っていた箱には、薄い色で紋章のようなものが書かれていた。
私の後ろにフレンが立ち、視界の両側から彼の手が箱へ伸びる。ひゅぽ、と空気が擦れる音と共に、蓋が持ち上げられた。
中に納まっていたのは、絹のようなつやつやした布。……いや、これは。
「……ドレス?」
「……だね」
フレンの手によってそれは広げられ、全貌が明らかになった。
膨らんだ袖と裾。いたるところにギャザーが寄り、リボンがアクセントとして胸や袖にくっついている。スカート部分には大判のレース地が重なって、ふんわりと膨らんだスカートをより一層フワフワにしている。全体の色は何故か、可愛らしい桃色だった。
思わず絶句した。とてつもなく女の子女の子しすぎていて、「これは私が着るものじゃない」という判断が本能レベルで瞬時に下された。
そうだ。こういうすごく可愛い服は、服に負けないくらい可愛くて綺麗な人が着る物なんだ。私にはきっと似合わない。