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「や!」

手足をバタバタさせると、彼は慌てて私を下ろした。

「ごめんなさい。驚かせてしまいましたね」

すぐに逃げようかと思ったが、思いのほか礼儀正しい人だったのでやめておいた。
フレンほどではないが、背の高い彼を見上げる。彼はにっこりと上品に笑い、しゃがんで私と目線を合わせた。

「こんにちは。私はヨーデル。あなたのお名前は?」

「……フィナ。こんにちは」

「フィナ。可愛い名前ですね」

彼は私の着ているマントに目を滑らせ、「その色はフレン小隊ですね」と言った。

「あなたも隊員なのですか?」

「保護してもらったんです」

「そうなのですか。いい騎士達だったのですね」

「はい」

騎士団の事に詳しい。ということは、彼は関係者なのだろう。
警戒心が少しだけ解けた。途端に彼に対する興味が沸いてくる。

「お花、見てたんですか?」

「ええ。キルサンタスの花が見事なんです」

ほら、と彼が手招きするので、彼の後について花壇に近寄った。そこには星のように尖った形の、赤い花が咲いていた。

「いいにおい」

「本来は海辺に自生する花なんですよ」

「へえ」

彼は再びしゃがむと、「フィナはそこで何をしていたのですか?」と尋ねてきた。

「中庭に行こうとしてました」

「一人で、ですか?」

「フレンがエステリーゼ様とお話していたので……先に来たんです」

思い出すと、また胸が痛くなる。もっと別のことを考えようと、じっと目の前の赤い花を見つめた。

「フィナはフレンが好きなのですか?」

見透かされた事に驚き、ヨーデルを見る。彼は口元に優しい微笑を湛えながら、私をじっと見つめていた。

「……うん」

そんなに分かりやすいものなのだろうか。少し、顔が熱くなった。

「そうですか。それではあまり気分がよくありませんね」

「ん……けど、二人とも悪くないので……我慢しないと」

「そうでしょうか」

彼の意図が分からず、じっと緑の目を見つめた。

「あなたが嫌な気持ちになったのは、どうしてだと思いますか?」

「……フレンが、他の人とも仲良くしてたから」

私とだけ、仲良しでいて欲しい。他の人―――特に、エステリーゼのような可愛い女の人と親しいのは嫌だ。

「なら、それをフレンに伝えればいいんです」

やっぱり彼の言う事は分からなかった。
それを伝えてもフレンが困るだけで、私の言いなりになってくれるとは思えない。エステリーゼ様は大事な友人なんだよ、と諭すフレンの姿が頭に浮かんだ。

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