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何かまずい事をしてしまっただろうか。朝からの自分の行動を振り返ってみるが、心当たりは全くない。変わったことなど無い。あえて言うなら、ちゃんと野菜を食べた事を褒めたくらいた。
「フレン……フレン? フレーン!」
突然エステリーゼの声が耳に入ってきたように感じ、フレンは「は、はいっ!?」と間抜けな返事をした。
「大丈夫です?」
「すみません。フィナの行動に少し、驚いてしまって」
「きっと、立ち話はフィナにとって退屈だったんですよ」
後で謝らなきゃ、とエステリーゼは困った様子で微笑んだ。
退屈―――いや、それはない。
彼女は退屈だから、という理由で勝手に何処かへ行ったりする子ではなかった。フレンにとって目上の人物の前に連れて行っても、大人の話が終わるまで落ち着いてきちんと待っていられる子なのだ。だからこそ、騎士団長はフィナを連れ歩く事を容認している。
そうだ。フィナがこんな行動をするのはおかしい。
フレンは此処最近のフィナの様子について振り返り、「あ」と声を漏らした。
「どうかしました?」
「いえ、なんでも……」
単純な事だった。昨日、フィナはフレンに恋をしていると知ったばかりではないか。
自分の配慮の無さと鈍さを恥じた。仕方の無い事とはいえ、フィナの気持ちを考えれば十分予想できたことだ。
すぐに追いかけよう。
きっと、彼女は寂しい思いをしている。
***
いつもの中庭まで、あと一角、という所だった。
あと一つ角を曲がれば、開けた視界に緑の木々が見える。
けれど、今私が向いている方角にも緑が生えていた。
いつもの角より一つ前の角を曲がった所、そこにも小規模な植え込みがあった。中庭、というより廊下に添えられた大き目の花壇、といった印象だ。
そこの花を、一人の青年が廊下に突っ立って眺めていた。明るい金髪に、緑の瞳。服装は微かに中世の貴族のようだった。
どこか、フレンに似ている。誰だろう。
見たことは無かった。此処は何度も通った事があるが、彼のような騎士でも使用人でも無さそうな人物を見かけるのは初めてだった。
中性的な横顔は心此処に在らずといった様子でぼんやりとして見える。
と、彼の瞳に意思が宿った。くるりと首が回ってこちらを向く。
澄んだ緑の瞳と、ばっちり目が合ってしまった。
すぐに廊下の死角へ引っ込んだ。もし彼が短気だったなら、ジロジロ見られていた事を怒るかもしれない。
フレンのところへ戻ろうか。……いや、彼がエステリーゼとおしゃべりしている所は見たくない。
さっさと中庭まで逃げてしまおうと思った所で体が宙に浮いた。
「み〜つけた」
すぐ近くから聞こえた声にビックリして振り向く。
さっきの緑の瞳が、目の前で細められた。