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繋いでいる彼の手が、いつもより温かい気がした。
昼食を終え、今日も中庭で休もうと人気の少ない廊下をフレンと二人で歩いている。
昨日の事を思い返すと赤面してしまう。自分の気持ちに気付かず、よりによって想い人だったフレンに相談してしまうなんて。
喜んでもらえたから良いものの、もし拒絶されていたらと思うと恐ろしい。そうなったらきっと、ぎこちないどころかギスギスした関係になっていただろう。
フレンは私の気持ちを喜んでくれたけれど、私を好きだとは言ってくれていない。
今の私は子供だから、フレンの恋人とか、そういう関係にはなれない。それは分かっている。けれど、私の気持ちをいつか消えるものだと信じている彼は……まるで私の気持ちを信じていないようで、寂しかった。


「まあ、フレン。フィナも。こんにちは」

可愛らしい声に顔を上げると、本を抱えたエステリーゼが立っていた。
こんにちは、と挨拶を返すと、彼女はにっこりと嬉しそうに微笑んだ。

「二人とも、お昼休みです?」

「ええ。フィナと中庭でゆっくりしようかと」

「そうなんですか。私はお昼これからなんです。本を選ぶのに時間がかかってしまって」

彼女の手にある本は分厚く、百科事典の様だった。彼女は私の視線に気付き、「ギルドの事を書いた、ルポルタージュなんですよ」と表紙を見せてくれた。題名は読めなかった。

「そうだ、フレン。あのお話はどうなりました?」

何かを思い出したらしい彼女は、期待を込めた瞳をフレンに向けた。

「あの話……あ、あれですか!?」

意外にも、フレンは声が裏返るほどの動揺を見せた。何だろうとフレンを見つめると、彼も私をちらりと見て、そしてパッと逸らしてしまった。
もしかして、私はこの場にいないほうがいいのだろうか。

「その……わざわざ口にする必要は無いと」

「もう。ゆっくりしていると盗られてしまいますよ!」

「盗られるって……誰にですか」

「そうですね……突然現れた謎の貴公子、とか」

「はあ……」

「とにかく、善は急げ、と言います」

エステリーゼとの会話は楽しそうだった。私には見せない表情をする彼がそこにいて、何故か、とても、胸が痛い。

「私、先に行ってる」

「えっ?」

フレンから手を離し、エステリーゼの横をすり抜けて中庭へ向かった。
後ろから名前を呼ぶ声が聞こえたが、振り向かなかった。



***



「フレン、追わなくていいんです?」

エステリーゼは困惑した瞳をフレンに向けた。
問われたフレン自身も困惑していた。フィナが自発的にフレンから離れるのは、お風呂に入れようとする時を抜かせば初めてだった。

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