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恋。
……これが、恋。
その言葉は案外すとんと腑に落ちた。言われてみればこの感覚は、本やドラマに出てくる、恋するヒロインの独白にそっくりだ。
彼は呆けている私を持ち上げ『たかいたかい』をした。驚きと『変な感じ』と恥ずかしいような感じが胸中で混ざりながら煮込まれて、爆発しそうだった。
「恋、っていうのはね、ある人をすっごく好きになる事を言うんだ。胸が苦しく、変になるくらいにね。多分フィナは、僕の事を、すっごく好きになってくれたんだと思う」
どうかな?と彼は小首をかしげて私に伺った。
小さく頷くと、彼はまたとろけるような笑顔になる。
「すごく嬉しいよ。今君が知っている、精一杯の世界の中で……僕を、一番に思ってくれて」
彼の声は、本当に嬉しそうだった。彼の元へ引き寄せられ、目の高さが一緒になる。彼の吸い込まれそうな碧い瞳に、私が映っているのが見えた。
「君はまだ幼い。きっと、その気持ちは成長すると同時に忘れてしまうのだろうね」
急に、フレンの瞳が憂いで曇った。突然どうしたのだろう。
半ば反射的に「そんなことない」と反論すると、彼は気を遣った笑みを浮かべた。
「フィナ。君はこれから大人になる。広い世界を見て、色んな人と出会うんだ。そしてきっと、その中で新しく恋をする。それは決して悪い事じゃない。良い事なんだ」
「フレン……」
まるで、彼自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
彼の言うとおり、私の心は変わってしまうのだろうか。そんな不安に襲われる。
いいや。そんなはずはない。
私の心は、子供なんかじゃない。
「私、子供じゃない。忘れたりしない」
「―――ありがとう」
フレンは背伸びした子供を見るように笑った。