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「ワフゥ」

まるで溜息のように聞こえた。横目でこちらを見、スタスタとユーリの方へ向かい、また私を横目で見る。
ついて来いよ、ほら、俺が先に行ってやるよ、怖がる必要はねーぞ……
彼の行動の解釈が頭に浮かび上がる。草むらの一件といい、彼はまるで子犬に教育を施す母……いや、父犬のようだ。

「世話の焼ける、だそうだ」

本当にそうだった。
ユーリの通訳した内容に、少しだけプライドが傷つく。
私は一応、ラピードより年上なのだ。こんな行動をされては、精神年齢で負けているような気がしてくる。
負けん気を奮い起こし、ラピードの隣―――ユーリの元まで駆けた。
ユーリはわざわざ椅子から立ち上がると、しゃがんで私と目線を合わせてくれた。

「陰険で頭の固いヤツだが、よろしく頼むな」

ぽん、と頭に彼の手が乗っかる。フレンと似ているようで、少しだけ荒っぽい感じがした。
誰の事を言っているのだろう。ラピードやユーリではない。フレンも、陰険というような性格の悪い人ではない。
首をかしげて見せると、彼は「あと、手料理には気をつけろ」と付け加えて口角を上げた。
ますます意味が分からなかった。

「それと……そうだな。何か悩み事があったらフレンに相談してやれよ。お前が悩んでることがアイツの悩みになっちまうからな」

そんな事、考えもしなかった。びっくりしてフレンを振り向いた。彼はずっと私を見ていたようで、すぐに目が合い、不思議そうに微笑み返された。


入浴前の追いかけっこはお決まりになりつつあった。
逃げている間に運良くソディアを見つけて、彼女と一緒にお風呂に入れたら……と淡い希望を抱いて毎回逃げているのだが、今日も彼女は見つけられなかった。
フレンを見ないようにしながら入浴を終え、部屋に戻る。お風呂から上がると、私は寝巻きに着替える。部屋でフレンとおしゃべりしている間に眠くなって、そのまま寝てしまうのが常だからだ。
ベッドに二人で腰を下ろし、今日あった出来事を中心にお話した。バッタの子供に驚いたこと、ラピードが大人でちょっと悔しかったこと、おかみさんがカッコイイこと、そして、フレンに抱きしめてもらって嬉しかったこと。
それを聞いた彼はにっこり笑い、もう一度私を抱きしめた。今度はなんだか恥ずかしかった。そして、胸があの変な感覚に襲われる。

『何か悩み事があったらフレンに相談してやれよ。お前が悩んでることがアイツの悩みになっちまうからな』

ふと、ユーリの言葉が頭に浮かんだ。
フレンに相談するべきだろうか。この原因不明の、胸の異変。
不安で胸が再びぎゅっとなった。私の表情を敏感に読み取ったフレンは、「どうしたの?」と心配そうに尋ねてきた。
私が悩む事が、彼の悩みになる。
ユーリの言葉を反芻し、フレンを見上げた。私を見る彼は、心配そうに眉尻を下げている。

「フレン、あのね……」

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