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「もう一度聞かせてもらえないかな?」
「○×△□です」
言ってから、はたと気が付いた。もしかしたら、苗字が最初に来たことに戸惑っているのかもしれない。
言い直そうかとも思ったが、既に彼―――フレン・シーフォは次の質問に移っていた。
「そうか……じゃあ、君はどうしてここにいるのかな?一緒の人とかは……」
そもそも、ここは何処なのだろう。私はそれすら分かっていない。
「あの、ここはどこですか?」
「ここは、廃都シゾンタニアの近くだよ。」
聞いたことの無い地名。日本でないことは確かだ。見たことの無い服装。聞いたことの無い場所。見たことも無い動物。そして、此処に来る前に私を襲った信じられない出来事。
『異界の子よ。そなたはどんな世界を望む』
あの不思議な動物の声が脳裏に浮かぶ。
私は、異世界に来てしまったみたいだ。
「……分からないかな?」
フレンは困った顔で首をかしげた。確かに、どう説明したらいいのか分からない。
今の自分の心情を一番正確に表した言葉に思えて、首を縦に振った。
「そっか。」
彼は此処で待つように言うと、立ち上がって同じ服の仲間の所に行った。
私の処置を相談しに行ってるのだろうか。
その間、なんとなく辺りを見回して過ごした。自分が落ちてきたであろう、空を見上げる。
薄い水色。そんなに変わったところは無いように思える。違和感を覚えるのは人と動物に対してだけだ。他は地球と変わらない。
少しして、フレンは女の人を連れ、食べ物を手に戻ってきた。
「はじめまして。私はソディア。貴方の名前は?」
猫のような目をした人だった。泣き黒子が印象的で、優しく微笑んでいるが性格がキツそうに見える。年は、私より少し上だろうか。
先程と同じように名のると、彼女もぽかんとした後、眉根を寄せた。
「お腹空いてるだろう? 食べ物を持ってきたから、食べるといい。」
横からフレンがトレーに乗ったサンドイッチを差し出した。寝起きで空腹は全く気にならない。けれど言われてみれば晩御飯も食べていない。
ありがたく頂くことにして、一見ただのサンドイッチに見える物体を口の中に入れた。
味も、問題なく卵サンドイッチだった。
私が食べ物に集中しているのを見て、ソディアとフレンは音量を抑えて内緒話を始めた。