□1
[ 101/156 ]
あたたかい。気持ちいい。フワフワとして、とても幸せな気持ちだった。
頭を撫でる彼の手は、無骨だけれどとっても優しくて、もっと撫でて欲しいと思った。
なんだか懐かしい。昔はお母さんに抱っこされるたび、こんな気分になっていた気がする。
けれど、それとはまた違う感覚が胸にあった。ぎゅっと締め付けるような、痛いような、震えるような、けれども幸せな感覚。
私を解放したフレンは、抱きしめられた感覚と同じ、あたたかく優しい表情で私を見据えた。
「……フレン、どうしたの?」
いきなり抱きしめるなんて。
嬉しいけれど、彼の行動は不思議だった。
近くのテーブルにはユーリが座っていて、こちらの様子を眉を顰めて見守っていた。なにか気に障ることをしただろうかと心配になる。
頭にあたたかいものが被さったのを感じ、再びフレンを見上げた。
「君が悩み事を抱えているんじゃないかって、心配になったんだ。最近、様子がおかしかったろう?」
私の不調を見透かされていた事に驚き、目を見開いた。
よくよく考えてみれば当然かもしれない。彼は私の嫌いな食べ物を、ずばりと当ててしまう程の観察眼の持ち主なのだ。
「情けないけど……ユーリやおかみさんに相談するまで、君に何をしてあげればいいのか、僕には分からなかったんだ」
彼が恥ずかしそうに笑う。成人男性には相応しくないかもしれないが、その顔は『可愛い』という形容が一番しっくりときた。
「それで、おかみさんが教えてくれたんだ。こうやってぎゅっとすれば、不安な気持ちが軽くなるんだって」
私の頭にのせていた手を下ろし、再び私を両腕に閉じ込める。あたたかな、幸せな気持ちが再び胸に湧き上がった。
「ほんとだ」
私の言葉を聞いて、フレンとおかみさんが嬉しそうに微笑んだ。
その後のフレンとユーリの会話は、私にはよく分からなかった。
「いいんじゃねーか。俺が何か言ったところで、決意が変わるようには見えなかったぜ?」
「そうだね。君に反対されても、従う気なんて無かった」
「そーかい。お幸せに」
「ありがとう」
「フィナ、ちょっとこっち来いよ」
突然名前を呼ばれて硬直した。
私は今、フレンの膝の上に座っている。正面に座ったユーリの元へは数歩の距離だ。一応膝から床に下りたが、先程の不機嫌な表情が気になって、彼に近付くのは少し怖かった。
「クーン」
背中を何者かに小突かれ、前につんのめった。犯人―――ラピードは私の側面に体を擦りながら、するりと前へ回った。