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「……本当に、フィナが僕を嫌がっていると思うかい?」
先程の強硬な態度を崩し、彼は不安げにユーリを見つめた。
「可能性の一つだと思うぜ」
「……そうか。実はね、ユーリ」
「ん?」
「僕、フィナを養子に迎えたいんだ」
「なにぃ!?」
柄にも無く大声を出し、ユーリは椅子を後ろに倒す程の勢いで立ち上がった。
当然、店内の興味は一斉にユーリの方へ向く。騒ぎに気付いたおかみさんが、「何、どうしたの」と様子を見にやってきた。
「すみません、お騒がせして……」
「いつものことさ。気にしないで。それで? 何の騒ぎだい?」
「……フレンがフィナを娘にしたいんだと」
「娘? フィナちゃんを? 思い切ったねえ」
おかみは口を開けたまま「ははあ〜」とフレンをまじまじ見つめた。そして人好きのする笑顔を浮かべると、「フレンなら大丈夫だ」と言い切った。
肯定的な意見を貰い、フレンはホッと顔をほころばせた。だが、ユーリはその意見を、楽観的すぎるのではないかと複雑な気持ちで聞いていた。
「それで珍しく此処を尋ねてきたんだね。フィナちゃんにはもう言ったのかい?」
「いいえ、まだ……拒否されるのではないかと、少し心配なんです」
「何言ってんだい。あんなに仲の良い様子だったじゃないか。まあ、本当の親御さんのことが分からない状態じゃ、気が引けるかもしれないね」
「そうですね……」
フレンは曖昧な笑みを浮かべた。ユーリを含む下町の彼らは、フィナが異世界からやってきた事を知らないのだ。その事は、フレンとフィナだけの秘密になっている。フィナはそれを人に広めたがらなかったし、フレンも、気軽に口にして良いものだとは思わなかった。
フレンがフィナを養子に迎えたい理由は二つあった。
一つは、彼女との関係を強固なものとして、今後も彼女を守る為のあらゆる手段・権利を行使できる立場でありたいから。
もう一つは、単に彼女と離れたくないからだった。
騎士団長の提案の件もあるが、正式に身内の関係になれば、そう簡単には切れない縁を結ぶことになる。二人が離れた場所にいても、フィナの身に何か重大なことが起きれば、人づてにフレンに連絡が来る。その逆も然り。それがこのテルカ・リュミレースだけで通用する絆だったとしても、フレンにはとても重要なことだった。
「でも最近、フィナに避けられてるような気がするんだとよ」
「ん? なにか気を使わせるようなことしたのかい? 子供は案外敏感だよ」
「フィナをダシに、僕を貶める事を言った人がいたんです」
「ああ〜じゃあ、一緒にいたらまたフレンが悪く言われると思ってるんじゃないのかい?」
「そうなんでしょうか……気にしないよう、ちゃんと話をしたのですが」
「他に原因があるにせよ、フレンがやるべきことは一つだよ。あの子が帰ってきたら、思いっきり可愛がってやるんだ」
「可愛がる……?」
おかみは両手を腰に据え、バチンとウィンクをした。
「抱きしめて、頭撫でてやって、いやな気持ちとか不安を散らしてあげるんだよ」