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恐る恐るジャングルに足を踏み入れる。草刈の後の、青い草のにおいがした。

「きゃっ」

白くて小さいものが足元から飛び出た。何が出たのかと足元確かめるが、何もいない。

「バッタの子供だよ。小さいと色も薄いんだ」

テッドがさも当たり前のように説明した。あんなに小さくて早いものが見えたのだろうか。

「なんだ。もしかしてフィナ、バッタも見たことないのか?」

「あるよ」

子供のは見たこと無かったけれど。
私の発言を、彼は見栄を張ったものと思ったらしい。にや〜と気に障る笑いを浮かべると、くるりと私に背を向けてしゃがみこんだ。

「なら、これはどうだ!?」

振り向くと同時に突き出された。体長は10センチ程。足が左右3つずつ、計6本生えている。殻に覆われた体は独特の輝き方をしており、黒地に黄緑の水玉という毒々しい色をしていた。私が知っている虫で形容するなら、バッタとカメムシのあいのこのような形だ。
ゆっくりとした動きで、6本の足がうごめいた。関節や脚と体の接合部が、とても気色悪い。
ぞぞっと、全身に悪寒が走って鳥肌が立った。

「い……」

「すごいだろ!これだけの大物は中々いないんだ!」

「いやあああああ!!」



***



「要は避けられてるような気がするんだろ? 何か壊したけど言えずにいるとか、後ろめたい隠し事があるんじゃないか?」

「隠し事? フィナが僕に隠し事なんて、できるはずがない」

「何だその自信は」

「寝てる間は勿論の事、昼間もずっと一緒なんだ。お風呂もトイレもついて行く。隠し事なんて」

「おい。それが原因じゃないのか」

「何の」

「きょとんとすんな。お前がべったりしすぎで離れたいんだよ、フィナは。お前の方こそ、よくそこまでくっついてて平気だな。その、一人になりたい時くらいあるだろ」

「フィナが僕から離れたいなんて思うわけない。例えそうであったとしても、あの子はまだ幼いんだ。出来る限り目を離さずにいるべきだ。えっと、いつもフィナを先に寝かせるんだ」

「なるほど。ならトイレくらい一人で行かせろよ。てか、なんだ、おまえ女子トイレに……」

「そんなわけないだろう!! 女子トイレは少ないんだ。男子トイレを使わせる事もあるから、僕がドアの前で番をしてるんだよ。手を洗う時も、抱っこしてあげないと手が届かないし……相応の理由があるんだ」

「風呂は?」

「ユーリだって騎士団の浴場の広さは知っているだろう。一人で入るなんて、溺れでもしたらどうするんだ」

「フィナは泳げるだろ」

「風呂で泳ぐのはマナー違反だ。それこそ僕がついてお風呂の入り方を教えてあげないと」

「……わーったよ。どうあってもフィナを離したくないわけだ」

ユーリは溜息をついて、背もたれに体重を預けた。
よくここまで他人の子に肩入れできるものだ。いつまで世話をすることになるのかは分からないが、この調子では親離れできない子に育つのではないだろうか。いや、親の子離れの方が深刻か。
そんな事を心配しながら、彼は再び目の前の親友を見た。

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