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「……大丈夫だよ」

頭を撫でてあげようと手を持ち上げる。と、ぷいっとそっぽを向いて避けられてしまった。
結構、プライドが高いようだ。
顔を上げると、草むらを漁るテッドが目に映る。
数分前に「ここはユーリに教えてもらった秘密の場所だよ!スゲー虫がいるんだ!みてろ!」と意気揚々飛び込んでいった。一緒に探そう、と言われなくてよかったと思いつつ、私は近くの石垣に腰を下ろしている。
フレンと離れても、頭の中は彼のことで一杯だった。

『フィナも、僕の事好きだろう?』

そう言って穏やかに微笑んだ彼の顔が、頭から離れない。
胸がきゅっとする。フワフワして、幸せな気もする。けれど、すごく変な感じなのだ。
今までこんな事は無かった。自分が今どういう状態にあるのか、全く分からない。
不安を感じて、胸がぎゅっと痛くなった。
身体は健康なのだから、心の病にでもなっているのだろうか。慣れない世界での生活にストレスを溜め込み、陰口の一件が引き金になって―――発病。
案外そうかもしれない。浮き立つような幸せな気持ちになったかと思えば、足元が崩れるような不安に襲われて、安定しない。端的に言えばドキドキするのだ。フレンといると、不思議と心強くてホッとして、嫌な事なんか思い出さなかった。それなのに。最近は、フレンとの関係もどこかぎこちない。
なんだか落ち着かなくて、宿屋の方向に目を向けた。
彼は今、何をしているだろう。ユーリと話をしているのだろうか。彼とフレンの会話は気安そうで、私が入る余地は無い。戻っても寂しい思いをするだけだ。分かっている。けれど。
視線を感じてそちらの方を向くと、ラピードがやたらと落ち着いた目で私を見据えていた。

「ワフッ」

彼は控えめに私のマントへ噛み付き、くいくい引っ張った。

「な、なあに?」

どこかへ連れて行きたいのだろうか。そう感じた私は石垣から立ち上がり、引っ張られるまま移動した。

「お、フィナも探す?」

ラピードが連れてきたのはすぐそこ、テッドがいる草むらだった。
ここが、どうかしたのだろうか。

「クゥーン」

「私も遊べ、ってこと?」

「ワンッ」

元気一杯の声。正解のようだ。
けれど……そういわれても、私は虫が好きではない。
雑草は私のお腹の辺りまで伸びていて、草むらは小さなジャングルのようだった。
ラピードは親切にも先にそこへ飛び込み、しっぽを使って背の高い草を倒してくれた。
そこまでされたら、入らないわけにはいかない。

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