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「フィナの様子がおかしい?」

目の前に座る帝国騎士団小隊長は、深刻な様子で頷いた。
下町の酒場は半分ほど席が埋まっており、忙しいとも暇ともいえない状態だった。その隅っこの席で、ユーリ達は膝を突き合わせていた。
フレンが部屋を訪ねてきた時、ユーリはあまりの珍しさに腰を抜かしそうになった。ユーリが騎士団を辞めてから、彼は一度もユーリを尋ねてきた事など無かったのだ。
理由はすぐに分かった。彼がフィナにテッドと遊んでくるよう言った時に。
大方、誰かにフィナの事を相談したかったが、彼女とはいつも一緒にいるために出来なかったのだろう。
下町に来ればテッドという遊び仲間がいる。
そして子育ての先輩、二児の母であるおかみさんもいる。
相談にはもってこいというわけだ。
フィナは数分前にテッド、ラピードと一緒に出かけていった。半ば無理矢理連れ出された様子からして、彼女はあまりテッドが好きではないらしい。フレンと離れたくなかった、と受け取ることも出来るが。

「俺よりおかみさんに聞いてもらったほうがいいだろ。おーい」

カウンターに向かって手を上げると、待ってくれ、と手首を掴んで引き下ろされた。

「んだよ」

「まず、君の意見が聞きたい。他のお客さんもいるし、今呼んでは迷惑だよ」

まあそうか、とユーリは納得し、大人しく話を聞く体勢になった。フレンはそれを確認し、口を開いた。

「なんだか、フィナの態度に壁があるというか、よそよそしいというか……元々、彼女は慎み深い性格だけど、以前にも増して遠慮がちなんだ。おかしいだろう? もう一緒に過ごして大分経つんだし、もっと慣れて―――だ、抱きついて甘えてきたりしてもいいと思うんだ」

「最後のはただの願望だろ。……けど、よそよそしいってのは変だな。心当たりはねーのか?」

「他の騎士に陰口を叩かれてから今の状態になった、と、思う。けど、それについてはちゃんと話をしたよ。気にしても仕方の無い事なんだよって。彼女も納得してくれた様子だった」

「ふ〜ん。陰口ねえ……だったら、それをまだ気にしてるんじゃないのか。小さい子なら、頭で納得させても感情はついていかないだろ」

「そうなのかな……でも、それとはまた様子が違う気がするんだ」

「違うって、どう違うんだ?」

「そうだな……恥ずかしがっている、とでもいうのかな……」

「恥ずかしがってる?」



***


「クゥーン」

ラピードが顔を覗き込んできた。大丈夫か? そう聞かれているような気がした。

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