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微かに残っていた眠気が根こそぎ吹き飛んだ。心臓が驚いて飛び跳ねる。頭の中は真っ白だった。

「もしフィナに嫌われたら、すごく困ってしまうな」

そう言って笑う彼は、どこか照れているように見えた。
返事が出来ずに固まっている私を、フレンは構わず片腕で抱き寄せた。額が彼の胸に当たって、彼の香りがした。

「ごめんね。君じゃなくて僕に向けられた言葉だったから、ほうっておいたんだけど……君も、気にしてくれていたんだね。ありがとう。……あれは、いつもの事なんだ。貴族は、えてして平民に厳しいからね」

胸がズキリと痛んだ。いつもの事。フレンは私が来るずっと前から、ああいう陰口を言われていたのか。

『あの子、正直ブスでしょ?』

クラスメートの言葉が蘇った。あのときの、心臓をつかまれたような感覚に襲われる。
あんな嫌な気分を、フレンは何度も味わっていたのだろうか。そう考えたら、余計に胸の痛みが増した。

「そんな顔しないでくれ、フィナ。僕はもう平気だよ」

私の顔を見て、フレンは眉尻を下げて口角を上げた。

「でも、フレン辛かったんでしょ?」

「昔の話だよ。今は平気」

「本当?」

「本当だよ」

「じゃあ……」

頭の中を探した。何かないだろうか。なにか、彼にしてあげたい。そんな気持ちが私の中で燃えていた。じゃあ、今私が彼に出来ることは何だろう。

「じゃあ、次フレンが辛かったら、私、フレンのこと好きって言ってあげる」

フレンが意表をつかれた顔をした。
改めて自分の言った事を反芻し、顔が熱くなった。
なんだか偉そうな言い方だ。慕ってくれる人がいればそれでいいと彼は言っているのだから、明確に彼のことが好きだと伝えればよかったのだ。
けれど、その言葉を口にする勇気が私に無かった。たとえ彼に「僕の事好きだろう?」という呼び水を貰っていたとしても、その言葉は簡単に口にできない、鍵付きの箱に入った大事なものなのだ。

「分かった。ありがとう」

それでも、フレンは嬉しそうだった。

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