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綿毛のような雲が浮かぶ青空。陽射しは強すぎず、春のように柔らかかった。
こんなに良い天気なのに、何故かこの場所は人気が少ない。廊下に囲まれた庭は細身の木が数本と、背の低い草花が規則正しく植わっている。どれも見たことの無い種類だが、目を見張るような色形のものは無かった。どこか日本にも生えていそうな、そんなホッとする植物達だ。
木陰に設置された、白っぽい石のベンチに腰掛けた。少しひんやりとした。
すぐ隣にフレンが座り、私の肩に手を置いて自分に寄りかからせた。
「眠かったら寝ていいんだよ」
優しい声が降る。確かにちょっと眠たい。お昼の後には、いつも眠気に襲われる。彼の体温が気持ちよくて、瞼が少しずつ重くなっていった。
と、いけない。
寄りかかっていた体を起し、眠気を吹き飛ばすために頭を振った。
「どうしたんだい?」
「……」
左側の廊下を、一人のメイドが歩いていた。彼も彼女に気付いてそちらを見る。彼女はこちらを気にするふうも無く通り過ぎて行った。
再び彼の視線が私に向く。何か問いたげな瞳だが、中々口を開かなかった。
「……もしかして、食堂で言われた事を気にしているのかい?」
目を見開いて彼を見た。
彼にも聞こえていたのか。それなら、どうして平然としていられるのだろう。
「フィナが気にする事は無いよ。君の保護は騎士団長の意志だ。君が此処で生活する事に、一片の非もない。彼らも騎士なら、それくらい分かるはずなんだけれどね」
フレンは悲しげに微笑んで、私の頭をゆっくり撫でた。
気持ちが良くて、また眠気がぶり返しそうになる。
「フレンは?」
「うん?」
「フレンは気にならないの?」
「どうして?」
「あの人たちに嫌われたかもしれないんだよ。嫌われたら嫌な事されるよ」
「そうだね。少し困るかな」
「少し?」
「うん」
良く分からなかった。人に嫌われるのはとても嫌な事だ。これは、全ての人に共通する価値観だと思っていたのに。
「フレンは嫌われてもいいの?」
「良くはないけれど……何か変わったことをすれば、反感を買うのは当たり前だからね。嫌う人がいることを気にしていたら、なにもできないよ。僕は、僕を慕ってくれる人がいればそれでいいかな」
「……ソディアさん?」
「そうだね。ソディアに、小隊の皆、下町の皆……フィナも、僕の事好きだろう?」