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頬が熱い。どうしよう、どうしよう、と炒め物とフレンを交互に見る。

「ほらフィナ。口を開けて」

フレンの箸が私の口に近づく。
―――もう、腹をくくるしかない。
思い切って料理を口に入れた。それを見た彼はにっこり笑い、次の一口を準備しようと箸を動した。
味なんて気にしている余裕は無かった。必死に咀嚼する私を、彼は小動物でも見るような、微かな好奇心が混じった穏やかな目で見つめていた。
飲み下したのを確認して、彼は「はい」と次を差し出す。それを繰り返すうち、いつの間にか炒め物は無くなっていた。

「ちゃんと全部食べれたじゃないか。偉い偉い」

とびきりの笑顔で褒められて、胸がほんのり温かくなった。つられて私の頬も緩む。

「なんだ、あれは。ここは保育所ではないのだぞ」
「平民は場をわきまえるという事を知らんらしいな」

喧騒に紛れて聞こえた声。周囲を見回してみるが、声の主らしき人物は見当たらない。騎士たちは皆、談笑しながら、あるいは黙々と食事を続けている。
不安になってフレンを見上げた。彼にはさっきの声が聞こえなかったらしく、首をかしげて私を見つめた。

「どうかした?」

「……なんでもない」

「……そう?」

私のせいで、フレンが悪く言われた。
胸に氷柱が刺さったような気分だった。心臓がひゅうっと冷たい。

洗い場に食器を出し、いつもどおりフレンに手を引かれて食堂を後にした。
また、さっきのように何か言われるかもしれない。繋いだ手を見てそう思った。

「フレン。私、今日は一人で歩く」

「どうして?」

「一人で歩きたいの」

「駄目だよ。迷子になったら怖い思いをするのはフィナだ。それに、手をつないでいないと心配で落ち着かないよ」

「道は覚えたから、ならないよ」

「手をつなぐのは迷子防止の為だけじゃない。フィナが勝手に危険な所へ行かないようにしているんだよ」

「私、そこまで子供じゃない」

珍しいものを見付けて走ったり、ボールを追いかけるのに夢中で周りを見なかったり……そんな、子供っぽいことはしない。あくまで、子供なのは見た目と身体能力だけだ。

「なら、今度からピーマンは一人で食べれるよね」

フレンが小さく笑いながら私を見た。
私の顔色の変化が面白かったらしい。フレンは吹き出して「ごめんね」と言った。
結局手は離してもらえなかった。今日は中庭へ行って休むみたいだ、と彼の進む道を見て思った。
食後に動くのはよくないからと、いつも昼休みの残り時間は適当な場所でのんびり過ごしているのだ。

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