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一噛みしただけで、口の中に苦味が広がった。
慌てて他のものを掻き込んで、苦味の沈静化を図る。けれど、ほのかな青臭さが口の中に残った。
おかしい。ピーマンはこんなに苦くなかったはずだ。この世界のピーマンは、地球のものより苦いのだろうか。それとも、私の味覚が子供になってしまったのだろうか。
炒め物に混じった細切りのピーマンは鮮やかな緑色で、特別変わったところがあるようには見えない。
また同じ苦味に出会うのが怖くて、他の料理をつついた。すると、「好き嫌いは良くないよ」と隣から声がかかった。
まだ他の料理も残っている。なのに、何故これを嫌がっているとばれたのだろう。
じっと隣席の彼を見つめると「フィナを見ていれば分かるよ」と碧い目が細められた。
此処は城内の食堂だ。ずらりと並んだ横長の木製テーブルに、鎧を着た騎士がひしめいている。
そんな中に、私のような小さい子供がいると当然目立つ。フレンの後について量が少な目のランチを受け取って、テーブルについて……という一連の動作の間、ずっと騎士達の視線に晒されている。そんなものだから感覚が麻痺してしまって、フレンが私を見ていたなんて気がつかなかった。
恥ずかしいような、悔しいような気持ちになって、思わず「フレンは嫌いなもの無いの?」と不満げに返してしまった。

「好きになれないものはあるね。でも、ちゃんと残さず食べるよ。折角作ってもらった料理を無駄には出来ないからね」

私だって、食べ物を無駄にしたくはない。けれど、いくら頭で理屈を捏ねたって、美味しくないものは美味しくない。なにより『苦い』のは、今の私にとってとても嫌な感覚だった。

「でも、苦いのは食べれないよ」

「そっか、フィナは苦いのが嫌いなんだね」

「うん」

「苦味は慣れないと美味しさが分からないからね。フィナのお口はまだ子供なんだ。だから早く大人になるように、苦くてもきちんと食べないといけないよ」

彼の口の上手さにに舌を巻いた。確かに私は普段「早く大人になりたい」と言っているけれど。
反論できず、再びピーマンの入った炒め物に目を向けた。でも、食べる気力は全く起きない。

「仕方ないな」

見つめていたお皿が横から攫われた。もしかして、と淡い期待を胸に隣を向くと、炒め物が一口分、箸につままれて目の前に浮いていた。

「はい、あーんして」

予想を裏切られて硬直した。
フレンが代わりに食べてくれるかも、と考えたのは流石に虫が良すぎたと思う。けれど食べさせてもらうなんて。まるで子供か、恋人同士みたいだ。

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