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又と無いチャンスだった。
少女と二人きり。今なら彼女に何をしでかそうが、見ている人間はいない。
シュヴァーンは少女の様子を窺った。すーすーと規則正しい寝息を立てている。これならしばらくは目を覚まさないだろう。

「……随分、汗をかいているな」

熱の所為だろう。汗で湿った前髪は、額に張り付いていた。
これでは気分が悪かろうと、シュヴァーンは部屋を漁って清潔なタオルを探し出した。少し水で湿らせてから、それで汗を拭いてやった。

「ふれん……」

少女の口から、うわ言がこぼれた。
彼女を保護しているという小隊長の名前。話に聞いている通り、随分懐いているようだ。
首の汗も拭ってやると、湿った衣服が手に触れた。見ると風邪っぴきだというのに温かい寝巻きではなく、どちらかというと薄めの平服ではないか。
若い青年に子供の世話を全て任せるのは無理があったか。
シュヴァーンは仕方が無いと息を吐き、再び部屋を漁って患者用の寝巻きを探し出した。勿論、大人サイズで少女に着せるには大きすぎる。しかし、治療のしやすさを考慮した特殊な作りの服だった。丈は長くとも、冷えないように襟元を狭く調節する事ができる。どうせここでは寝たきりなのだ。動きやすさについては無視し、保温を優先して構わないだろう。
上着だけ一枚取り出し、早速着替えさせようと少女の服に手を掛け、はたと気付いた。
いま自分がしようといている行為は、先程まで散々躊躇っていた変質者の所業ではないのか。
いやいやいや!
自分は医師に彼女を見ているよう頼まれたのだ。これは、治療や世話の範疇であって、決して如何わしい行為ではない。
心中でそう結論付け、シュヴァーンは一人頷いた。
そうと決まれば尻込みする必要は無い。早急に処置を済ませてしまわなければ。
……ついでに当初の目的であった、心臓魔導器の有無も確かめてしまおう。
再び彼女の衣服に手を掛ける。白い肌が露になる。心臓魔導器があるはずの、左胸を見――――

「………」

視線を感じて顔を上げれば、先程まで規則正しい寝息を立てていたはずの少女がこちらを凝視していた。
驚きに見開かれていた目は、次第に恐怖の色が濃くなっていき、ぷるぷると震える桜色の唇から、泣き声と叫び声のあいのこのような声が上がった。

「ふびゃあああああ!!」
「どうしたんだフィナ!?」

間髪いれずに医務室の扉が跳ね飛ぶ勢いで開いた。今朝方見た金の髪、フレン小隊長だ。
何故保護者がここに、と、視界の端に時計が見えた。正午だ。なるほど昼休みだ。

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