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シュヴァーンはアレクセイに告げられた情報を思い出していた。
―――シゾンタニアで見つけたフィナという子供を、騎士団で保護している。
その子供も黒髪と聞いている。城の中、しかも医務室に一般の子供がいるはずがないので、この子がそのフィナで間違いないだろう。
シュヴァーンは先程より注意深く、少女を見つめた。アレクセイの言葉の真意を確かめるために。

『彼女は君の後輩かもしれないのだよ』

後輩、とは一体どういう意味なのか。
自分のように、心が死ぬような惨事に見舞われたのだろうか。
それとも、もっと忌まわしい事態―――心臓魔導器を、胸に宿しているのだろうか。
もし後者なら、筐体の一部が外部に露出しているはずだ。だが、それを確かめるには重大な危険が伴う。
いたいけな幼女の服を剥ぎ、上半身を裸にさせるという行為は、どう頑張っても変質者の所業である。間違いない。
口頭で魔導器の有無を本人に確認するとしても、いい年のオジサンが「胸にうんぬん」などという質問を幼女に投げかけるのはどうなのだろう。
―――深刻に考えすぎているかもしれない。
シュヴァーンは冷静になろうと首を振り、少女から目を逸らしてベッドに横たわった。
目を閉じながら、無意識にシゾンタニア周辺の戦いについて考えた。
あの街の周辺で、大きな犠牲を出した戦いは無かったと記憶している。既に打ち捨てられた街だ。最も新しい記録は、街が放棄される原因となった事件になる。
周辺の魔物の凶暴化で、民間人を含む数人が犠牲になった。街に駐屯していたフェドロック隊の隊長もその一人だ。
そこで、シュヴァーンは「おや?」と思った。
アレクセイが心臓魔導器で蘇らせるのは、彼にとって有益な人物に限られるはずだ。
隣で寝ている少女が、彼の野望を実現させる為の力を持っているとは思えない。(人心掌握という意味ではかなり良い所をついているが)蘇らせるなら彼女よりも、魔導器の暴発で亡くなった軍師を選ぶはず。彼はアレクセイの好きな、魔導器の研究も行っていたのだ。
―――心臓魔導器は違うのか? それなら、後輩というのは何なんだ? まさか――――

「シュヴァーン隊長」

当直医に呼ばれて思考は遮られた。

「申し訳ありませんが、所用で少し外出します。すぐ戻ってまいりますので、この子を見ていて貰えませんか?」

「ああ、承知した」

「ありがとうございます」

医師はホッとした笑顔を浮かべた。
彼女は書類ケースを一つ抱え、申し訳無さそうに一礼してから医務室を出て行った。

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