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陽光降りそそぐ中庭沿いの道。黄緑色に透き通る木の葉はとても爽やかだが、頭の重みを紛らわせるほどの力は無い。
シュヴァーンは頭を押さえて唸った。どうやら昨日は飲みすぎたらしい。
どうにも仕事をする気が起きない。このまま執務室に行っても、ルブランの暑苦しい挨拶で頭を揺らされるだけだろう。
―――仕事、サボるか。
大人気ない考えが脳裏をよぎる。
しかし、今の彼はシュヴァーン・オルトレインだった。
人魔戦争の英雄、初の平民出の隊長。騎士達の尊敬を集めるシュヴァーン隊長。
彼なら、仕事を怠るべきではない。
“シュヴァーン”はそう考え、無理矢理足を動かした。

「ん?」

中庭を挟んだ向こう側に、チラリと黄色く光るものが見えた。なんとなくそちらを見たまま歩みを進めると、逸れは金髪の後ろ頭だった。

「お昼休みに様子を見に来るからね。いい子にしているんだよ」

金髪の彼はしばらくその場に立っていたが、やがてシュヴァーンとは反対の方向に向かって歩いていった。
後に残ったのは、『医務室』と看板の掛かった扉。
シュヴァーンは閃いた。
医務室で、体調不良を理由に昼寝をすればいい。それなら、隊長としての品格を傷つけず、仕事を怠ける事が出来る。
我ながら名案だと、心の中で自画自賛しながら道を急いだ。
医師をごまかすのも簡単だった。体調が芳しくないので休ませてくれ、診察は無用、休めば良くなると彼が言えば、英雄を前にした医師はどうぞどうぞとベッドを勧めてくれるのだ。
首尾の良さに幾分気分を良くした彼は、軽い足取りで白いベッドに近付き、

「ん?」

そこに寝ている、異様に小さい人間を見て足を止めた。
異様に、は言いすぎだった。しかし、普段城内では成人ばかり見ている彼にとって、その小ささは日常から外れたものだった。
大人の半分程の身長しかない。小さい手、小さい頭に長い黒髪。柔らかそうな肌は可哀想に、赤く上気している。瞼は閉じられていて、瞳の色を知る事は出来なかった。

「すみません、そちらのベッドは使用中で……隣のベッドをお使いください」

医師に言われて隣のベッドに腰を下ろした。が、横にはならなかった。隣の少女が気になって目が離せないのだ。

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