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「う〜ん」
こつん。フレンと私のおでこが触れ合う。少し、冷たい。
「熱いな。やっぱり熱がある」
鼻と鼻がぶつかりそうな距離で、フレンは眉間にシワを寄せた。彼の吐息が頬に涼しい。
頭がぼんやりする。けれど「フレンを困らせてはいけない」という考えが自然に働いて、「へいきだよ」と答えた。
私を安心させるためだろうか。彼は優しく微笑んで「そうは見えないよ」と言った。
「今日のフィナは、いつもよりリンゴさんだからね」
彼の手が私に伸びて、頬に触れた。冷たくて気持ちがいい。離れて欲しくなくて、両手で彼の手を捕まえて頬をくっつけた。彼の手は大きくてゴツゴツしている。いつも武器を握っているからか、手の皮は硬かった。
「今日は一日、医務室で寝ていようね」
「いむしつ?」
「怪我や病気になった人が、お医者様に診てもらう所だよ」
ごめんね、とフレンの手が私から離れた。
最近はほとんど一人でやっていた着替えを、手伝ってもらいながら済ませた。いつもの服と騎士団のマントの上に、フレンの幅広のマフラー―――というよりショールをかけてもらった。
「寒いかな?」
「へいき」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ、行こう」
医務室までの道は覚えていない。気がついたら薬臭い部屋にいて、白衣を着たお姉さんが目の前にいた。
「では、お預かりします」
「宜しくお願いします」
フレンの冷たい手が離れた。すぐにその手を追いかけたい気持ちに駆られる。けれど、そんなことをしたら更にフレンを困らせてしまう。
名残惜しく思いながら、彼と繋いでいた手を下ろした。
「お昼休みに様子を見に来るからね。いい子にしているんだよ」
「うん。いってらっしゃい」
最後まで心配そうにこちらを見ながら、フレンは医務室の扉を閉めた。
パタン。
扉の音が遠く聞こえた。風邪の影響が耳まで来たみたいだ。
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