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「エステリーゼさんと何話してたの?」
移動の途中で尋ねると、彼は「エステリーゼ様、だよ」と即座に敬称を訂正した。しかし、質問には中々答えない。ようやく答えたと思ったら、「フィナには難しい話だよ」とはぐらかされてしまった。
エステリーゼとフレンは、秘密の話をするほど仲が良いのだろうか。
それはそうだ。彼女とフレンは、私がこの世界に来る以前からの友人なのだ。
親密さで、敵うわけがない。
胸が苦しくてたまらなかった。頭の別の所では、「そんなこと、気にする必要ない!」と叫んでいる自分がいた。でも。それでも気になってしまう。気になって仕方が無い。
彼女と何を話していたのか聞き出せれば、この胸苦しさも引くかもしれない。
そう思って、反論した。
「難しくない」
「そうかな」
「本当だよ」
「う〜ん。僕はそう思わないけどな」
「本当だもん」
「そう?」
「うん」
「でも、教えない」
「えぇっ」
私の反応を見て、フレンはアハハと可笑しそうに笑った。
私は真剣なのに。
怒ってやろうかと思ったが、フレンの目を見て思い止まった。
私に向けられた眼差しが、とても温かかったのだ。
「恥ずかしいから。フィナには内緒」
よく分からない。フレンが私相手に恥ずかしいと思う事はなんだろう。昔の失敗について、エステリーゼに突付かれたのだろうか。
「……恥ずかしい事しちゃったの?」
「う〜ん、むしろ、これからするかな……」
「何を?」
「ないしょ。ほら、着いた」
フレンの部屋の前で立ち止まった。まだ、何を話していたのか聞き出せていないのに。
私の不満そうな様子を見て、フレンは「参ったな」と眉尻を下げた。
「じきにフィナにも分かるから。今日はいい子でお留守番をしているんだ」
いいね、と部屋に押し込まれてしまった。どうしても言いたくないらしい。
「……フレンのばぁーか」
閉じたドアに向かって、ひとりごちた。