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その天使に目を向けると、眉は八の字、口はへの字にして、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
怒られる。それを予測してあんな表情になっているのだろう。
微かに胸が痛む。フレンがフィナに部屋から出ないよう言ったのは、あんな悲しい顔をさせる為ではない。彼女の安全を願っての事だ。
胸の痛みと同時に、そんな彼女を可愛いと思う、矛盾する気持ちもフレンの中にはあった。
自分に叱られる事が、彼女にとっては泣くほど重大な事なのだ。
そんな、幼さと純粋さがいとおしい。思わず頬がゆるんだ。

「エステリーゼ様。申し訳ありませんが、フィナと少し話をさせて頂けませんか」

「ええ。構いません」

「フィナ。こっちにおいで」

呼ばれた少女は、手に持ったクッキーを見つめて少し考え、それを小皿の上に置くとテトテトとフレンの所までやってきた。見上げるその瞳は既に潤んでいる。
可哀想だが、フィナが言いつけを守らなかったのは事実だ。
フレンはゆるんでいた顔を引き締め、しゃがんで彼女と目の高さを合わせた。

「どうして勝手に部屋を出たりしたんだい?」

フィナは恥ずかしそうに目を伏せ、「トイレに行こうと思ったの」と小さな声で告げた。
なるほど。生きている人ならやむを得ない事だ。自分の配慮が足りなかったと、フレンは密かに反省した。

「そうか……確かにそれは仕方が無かったね。けれど、そのままエステリーゼ様の所へ行くのは良くないな。ソディアは君のこと、とても心配していたんだよ」

「うん……ごめんなさい」

「今度から、部屋を出るときは近くの騎士さんに声をかける事にしよう。どこどこに行ってきますって。そうすれば、僕にも伝わるから。ね、約束」

そう言って立てた小指を差し出すと、フィナは少し驚いた様子でそれを見、おそるおそるその小さな小指を引っ掛けた。そして、何かを期待するような目でフレンを見つめた。
不思議に思って「どうかしたのかい?」と尋ねると、「私が言う?」と話の見えない問が返ってきた。何を言うのか分からなかったが、フレンはなんとなく頷いた。
すると、可愛らしいソプラノが響いた。

「ゆーびきーりげんまん♪ 嘘ついたらはりせんぼん、の〜ます♪」

歌のリズムに合わせて手が上下する。聞いた事の無い歌だった。歌い終わると、指はパッと離れた。

「フィナの国では、約束する時に歌を歌うんだね」

「ん〜…歌っていうよりおまじない。フレンはこれ言わないの?」

「そうだね。小指を絡めて、上下にちょっと振っておしまいかな」

新鮮な気持ちだった。彼女との触れ合いは、普段意識しない普通の物事をキラキラとした物へ変えてしまう。

「じゃあ、部屋に帰るときは僕が送るからね」

「うん。ねぇ、フレン」

「なんだい?」

「……なんでもない!」

そう言うと、彼女はぱーっとエステリーゼの所まで走っていってしまった。あまりのあっけなさに少し寂しい気分になるが、彼女が目を輝かせて見ている物に気付いて合点がいった。

「エステリーゼ様」

「はい」

「フィナにあまりお菓子を与えないで頂きたいのですが……」

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