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仕方ない。変な味だったら、お菓子の味でごまかして流し込んでしまおう。幸いこちらの食べ物は、日本とそんなに変わらない。
「では、いただきましょう」
手を合わせて「いただきます」をし、早速まん丸のバタークッキーに手を伸ばした。
久々のお菓子。ワクワクしながら口を開けた。
「エステリーゼ様、少しよろしいでしょうか」
ノックの音と、聴き慣れた男性の声。
体が固まった。驚きで、さっきまでの幸せな気持ちが一気に吹き飛ぶ。
ここにいるのがバレたらまずい。部屋を出るなと言われていたのだから。さらに間の悪いことに、ダメと言われていた間食を、人様に貰って食べようとしている。
とっさに、隠れる場所はないかとあたりを見回した。だが、カップが二つ出ている時点で隠れることは不可能だった。
エステリーゼが心なしか嬉しそうな声で、「どうぞ」とドアの向こうの人物に声をかけた。
***
エステリーゼ姫警護の引継ぎを済ませ、本人に挨拶しようと扉を叩き、いるはずのない人物を見た。
ただでさえ円らな瞳を更にまあるくして、エステリーゼ姫の隣にちょこんと座っている。手には、姫から貰ったであろうクッキー。
事態が把握できず、フレンはドアを開けた体勢で固まった。
微妙な沈黙が流れる。エステリーゼが不思議そうに首を傾げる。
沈黙を破ったのは、ガチャガチャと鎧擦れの音と共に現れた、部下の一声だった。
「フレン小隊長!!緊急です!!フィナが!部屋から姿を消して……!」
「フィナ? フィナならここにいますよ」
ほら、とエステリーゼは隣に座る少女に目を向けた。
「さっき知り合って、お茶をご一緒していたところなんです」
その言葉に、部下―――ソディアも一緒にその場で固まった。
「そう、でしたか」
フレンはようやくそれだけ言って、同じく後ろで硬直していた部下に、持ち場に戻るよう告げた。
前任の者はフィナの事など口にしていなかった。おそらく姫は、意図していなかったにも関わらず、引継ぎの隙を突いてしまったのだろう。
思いもよらない形で警護の弱点を思い知らされた。フレンは早急な改善を心に決めると、開きっぱなしだった扉を静かに閉めた。
「お騒がせして申し訳ありません。その……フィナがご迷惑をおかけして……」
「まあ、迷惑なんてとんでもありません!私から一緒にお話しましょうって誘ったんです。お城の中にフィナみたいな小さな子がいると思わなかったので、私、てっきり天使や妖精だと思って」
「天使ですか……そうですね」
自分もあの子を見つけたとき、普通の子供とは思えない不思議な感覚がした事を思い出し、フレンは穏やかに微笑んだ。