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「兄は凛々の明星と呼ばれ、空から世界を見守ることにしました。おしまい」

『おしまい』の部分は三文字だった。やっぱりこの文字の法則はよく分からない。

「難しかったです?」

私の難しい顔を見て、エステリーゼは小首を傾げた。

「これでオシマイって読むんですか?」

最後の三文字を指差すと、彼女は「そうですよ」と保育士さんのように優しく相槌を打った。

「フィナくらいだと、まだ自由に文字を読むことはできないんですね」

私の識字具合を、この世界一般の子供と同じにしてはいけないと思う。
けれど、その理由を説明したくなかったので黙っていた。いきなり「天使」と言い出すくらいだ。いきなり「異世界」と言っても、彼女は簡単に信じてしまいそうではあるが。

「失礼致します」

コンコンという音と共に、ドアの向こうから声が聞こえた。
お茶の準備をしにいったメイドさんの声だ。
どうぞとエステリーゼが声をかけると、メイドはドアを開けて一礼をした。

「お茶の準備をさせていただきます」

そう言うと、彼女はホテルで使っていそうな小型の金属カートを引いて室内に足を踏み入れた。そのカートにはお洒落な茶器と共に、上品な小さいケーキ、クッキーやチョコといったお菓子が乗っていた。
うわぁと声を漏らすと、メイドが私を見てニコリと微笑んだ。少し恥ずかしくなって、視線を絵本に落とした。
猫足テーブルの上に、次々とお茶の準備が整えられていく。中心にお菓子が盛りあわされた大皿が乗り、私達の前には小皿とティーカップが置かれた。

「そちらの方もお茶でよろしいでしょうか」

メイドに尋ねられ、緊張のあまり変な声が出た。かしこまった言葉を使われるのは、どうも苦手だ。

「フィナにお茶は早いです? ミルクにしましょうか?」

少し迷ったが、とりあえず頷いて、はたと気付いた。
この世界には、地球と同じ動物がいないはずだ。馬という名の馬じゃない生物同様、牛という名の牛じゃない生物が存在するのではないだろうか。
つまり『ミルク』とは、その得体の知れない生物のお乳。
急に怖くなり、硬直して目の前に出されたカップを凝視した。
ちゃんと白い。ピンクとかじゃなくて良かった。変な香りもしない。問題は味だ。ぬるい牛乳や低脂肪乳のように、あまり美味しくない牛乳の味をしていても嫌だ。
隣のエステリーゼのカップに温かいお茶が注がれた。ふんわりと香りが流れてくる。酸っぱい果物のような香りだった。こちらも知らない飲み物だ。貰っても飲めそうに無い。

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