pm.23:55

「帰りましょうか、そろそろ」



【pm.23:55】

 九時を過ぎた頃、アレンの一声で誕生日会はお開きになった。
 リナリーの家から一番距離があるのがアレンと神田だ。
 二人が学園の寮に住んでいる。リナリーは実家で、ラビは高校三年になってから独り暮らしを始めていた。
 門限のある寮生は、理由にもよるが十時に帰寮しないと厳しい罰が与えられる。理事長の趣味でジャンルはさまざまだが一番酷かったのは、理事長の姪である「ロード・キャメロットの遊び相手一週間」らしい。
 昨年度まで寮生のラビは一度も課せられたことはないが、隣の部屋の子が彼氏とのデートとかなんとかで電車に乗り遅れたらしく10分遅刻をしたことがあり、ロードの刑にあって5キロ痩せたらしい。願ったり叶ったりと思いきや、それ以来門限をやぶったことはなかった。
 嘘も通らぬ理事長のせいで、健全な生活の男二人にリナリーは夜食を持たせた。
 まだ食べたり無いらしい。


「ぁ、ラビ。明日部活だからね!」
「ほいほーい」

 身支度も済んで玄関先でリナリーが見送る。明日一緒に買い物をする約束をしていたので絶対に来いという念押しでったに違いない。
 本当は、今日泊まっていけばと言われたのだけれど、そうも言っていられなくて。そこでリナリーの買い物に付き合う約束をしたのだ。


「んじゃ、ナイト二人に送ってもらうさ。明日な、リナリー」

 またです、またな、とアレンと神田も続いてリナリーに見送られる。
 真夏の夜。都会から少し離れたこの土地は、夜になると少しだけ涼しくて、ラビはスカートの中にデニムをはいてくるべきだったと後悔した。
 二人より数歩先にいるラビから思わずため息がでる。


「はあ・・・明日も、明後日も、しあさっても部活ですね、パッツン」
「てめぇ!!!!さっそく人に喧嘩うってんじゃねーよもやしチビ馬鹿腹黒!」

 てんやわんやと後ろ手で口論が始まると、ラビは首だけで振り向いて笑った。
 ため息なんか漏らしていた自分を慰めるかわりに、空気を明るくしたかったのだろう。
 方向性は違うけど、具体的な言葉は自分から言わないから、二人に気を遣わせてばかりいる。

「ユウーアーレン!ごめんごめん!ほら、飴あげるから喧嘩やめろさー」

 ポケットからは、リナリーから貰った棒付きキャンデー。

 二人に手渡すと、罰の悪い顔。
 ごめん。

「・・・あの、くそ教師」
「悪口はいけませんよ神田。犯罪者になってからとっちめましょう」


 神田が痺れをきらした。
 ラビの携帯が一回のならなかったことを知っていた。
 ティキから、連絡がなかった。ラビの誕生日なのに。

「・・・まあ、闇討ちするなら付き合いますよ、神田」

 にっこり笑ったアレンの目が据わっているのでが本気っぽくていい加減とめに入る。
 ティキがラビは自分の彼氏だということはわかっているのだけれど、二人があの保険医を罵倒することに遠慮はなかった。
 悪口自体を止めに入りたくても、ラビが言ったぐらいじゃ止まらない二人の性分はわかっていて。
 ラビ自身、二人・・・いや、三人の前でだけティキのせいで泣いたことがあるので強くいえないこともある。


 去年の冬に二ヶ月も遣っていなかった前の携帯から買い換えた、シルヴァーの携帯電話。
 ティキに壊されて、ラビはティキの携帯を壊してしまったので、安いものを二人で探して最新式でもなんでもない機種は一日うるさくなりっぱなしだったのに、機械の故障かってぐらい、ある指定着信の音楽は鳴らなかった。
 リナリーの家に泊まることも考えたが、もし夜中に電話があったりしたら、と思うと気が引けてしまった。
 ないかもしれない連絡の為に。

「・・・まあ、あの下手なロマンチストのことだ。今日ギリギリとかに突然現れたりするんじゃねえのか」

 神田がチッと舌打をする。

「それにしても、やはりミック教諭は紳士にあるまじきですね。まあ認めてませんけど」
 
 ラビのことを差引いて、アレンは保健室に通うことが多くてももともと気に食わなったらしいく、ティキのことをわざとミック教諭を嫌悪感をたっぷり含めてそう呼ぶ。
 普段はにこやかなアレンの顔が黒い。

「二人とも過保護さ〜。べっつに大丈夫だって!心配ふひつよー」

 ラビは二人の肩を叩いてけらけら笑う。
 悪口聞いて少しスッキリしたけど、を言うと二人が口を噤んで珍しく顔を見合わせて、そして思いっきり反らしあった。

 鳴らない携帯は鞄の中に眠っている。朝方、メールが一通だけ入っていた。

『連絡できたらするから』
 おめでとう、さえなかった簡素な言葉に踊らされて。
 仕事が忙しいあの人から、メールがあっただけで嬉しかった。
 皆と誕生日を祝っている最中は寂しさも忘れられたけど、ふと思い出して虚しくて、愛しくなる。
 秤で計ることなんか出来ない。だってそれは、違う領域で違う領分の感情だから。
 アレンと神田とリナリーがいてくれて、本当によかった。
 けど、夜は、待っていたいと思うから。

「んじゃ、明日学校でさー」

 アレンと神田と逆方向の電車に乗らなければならないラビは階段先で手を振った。
 ありがとう、にっこり笑うと二人ともまた明日と手をふり返す。

 大切なトモダチ、それとは別の意味であの人が大切なのだ。
 だから、電話を待っていよう。
 誰でもなく自分が信じなければならないと思ったから。

「暇ならメールしてくださいね!」
「俺にも」

 遠くでアレンと神田が競わんとばかりに手を振っていて、両手で振り替えした。


 帰宅したのはコンビにやら本屋によって十時過ぎ。
 携帯電話を取り出して、そのままガラスのテーブルに静かに置いた。
 此処において置けば振動が一発でわかるから。

 買って来た本もスイーツも横目に、にらめっこしても動きそうになかったので、三人に有難うメールを打って。
 三人三様にデコレーションするから結構時間を費やしたりして。
 遣り取りもひと段落して、再び独りに戻ると風が涼しく感じた。
 クーラー、掛けていないのに。
 ぽっかり開いた穴になだれ込むように風が吹く。

「風呂、はいってこよ…」

 橙色の髪の毛を触れるとべとべとしていて諦めるように浴槽にお湯を張ってゆっくり浸かる。
 頭の天辺からシャワーを浴びて邪念を取り除こうとしながら、小さく名前を呼んでみて、それ以上言葉は紡がなかった。

「おやすみさ」

 携帯電話に話しかけても何もかえってこないのに。
 わかっているけど。
 諦めちゃ、挫けそうになるから。

 その後、うとうと眠りにつきかけていたラビを完全の起したのは、凄く長い間聞いていなかった気がした、優しいメロディだった。





0813



なんだか過保護は二人!いな、三人!
恋とか愛とか関係ないって思ってください、この関係。

男の子ラビは、決行えげつないことをやっている妄想が多い為に、今回の女の子ラビは非常にすっとぼけた子だったりもする。
リアリストなんだけど、自分に無頓着だったりして、三人は毎回はらはら。

これでも、アレ神が好きなんです。アレ+神で、無意識片思いとかが好きです。リナリーはすべてわかっているポジションで。
リナリーはリナリーで、先輩とかに恋していたり、最終的にはアレ+神のどっちかと結婚していたらど・・・ごふっ。






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