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short
story

0419 帰巣本能

青色の空だった。

綿雲が点在していて、ラビの眼に突き刺さる白光がうざったくて、それでも見上げてしまうのは、きっと追求という行為を唯一営み続ける人間の性というモノなのだろう。

案外もっと単純な気まぐれだったのかもしれないけれど。
春色の黄色は強かな暖かさだと思った。額に汗は浮かびはしない。けれど確かに自分のそれより高い温度は皮膚を淡く戦慄かせていた。

 日陰があれば、と思った寸時、大きな何かがラビを照らすものとの間を遮った。

「…鳥、さ」

「は?」

 突然呟いたラビは立ち止まって改めて天空を指差した。遠い太陽の近くで、大き翼が羽ばたいたのだ。上手く見ようときゅっと眼を細めた。


影が移ろう速度が遅いのが尚も程遠さを実感させる。


 滅多に昼間から逢うことのない男が、隣で同じ方向を仰いでいた。

 思わず、問いかけるように言葉が零れた。

「どこ、いくんだろ…」


  立ち止まってまだその残像を追いかけるように視線を変えないラビに男、ティキが一瞬こちらを向いて唇を開いたが、結局黙ってしまった。

 無防備な表情で追い続けるラビの視線に、ティキは口元の煙草を指先で潰し捻ると乾いた笑いをこぼす。


「巣でにも、帰るんだろう」


 あんな不安定な場所でもがく様に羽ばたいて、落ちる事はないその命が帰るべき場所へ。




 人は、生きているものは、きっと全て総じて、論外も無く求めているものがあるはずだ。
 食べて出して、奪って奪われて。
 そのもげそうな翼で逃げることを厭わずに、その惰弱な二脚を奮い立たせ、風化しそうな尾鰭を打ち振るい

 孤独で迷走し、
 孤独で探求し、
 孤独からの脱却を目指す。
 一羽でも一人でも
 一匹では、
 きっと誰も手に出来ない。
 それでも、帰る場所を探している。


 はずなのに、



「巣、かあ」



 どこに行くんだろう。


(オレたちは道をはずしているからきっと一緒にいる)

(そうじゃないと、一緒に、いれない…から)


 晴れた空が似合わない男が歩き出す。ラビはゆっくり後ろをついてゆく。

 オレ達はどこに帰るの、とは言わないで。






:::追記




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