22 一年の終わり

リーマスのこと、「メンバーズ」のこと──いくつ心配事があろうとも、学年末試験は待ってくれない。六月の終わり、初夏の太陽がじわじわと教室を照りつける中、はじめての試験が行われた。カーラはできる限りの準備をして臨んだので、どの科目もまあまあの結果が取れたのではないかと思う。特に手応えがあったのは変身術で、スナネズミを水差しに変えるというマクゴナガル先生の試験に見事に応えてみせた。カーラが変身させた銀の水差しは美しく繊細な紋様で彩られ、さらに追加点を狙って中身の水を蜂蜜酒に変えたのも大成功だった。よろしければお味を試してみませんかと勧めてみたところ、マクゴナガル先生は目を丸くしつつも珍しく微笑み、カーラにも内緒で一杯飲ませてくれた上、「すばらしい蜂蜜酒ですね。ロスメルタに教わったのですか?」と褒めてくれたのだ。

魔法史は一番出来が悪かった。めちゃめちゃという程ではなかったが、カーラは答案を書いている最中、カンニングをしたいという衝動と何度か戦わなければならなかった。全く答えを思い出せない問題が一つ、まるで忘却術にかかったように曖昧な記憶の中から、無理やり単語を引っ張り出して小論文を作った問題が二つあった。

全ての試験が終わった後、エバンとセブルスは答え合わせをしに図書室へと向かった。マルシベールとカーラは終わった試験のことなんか考えたくないという意見で一致したので、厨房でこっそりおやつを失敬してから湖のほとりでのんびりすることにした。陽の光を受けて水面がきらきらと輝き、目に眩しいほどだ。ときどき水から脚を出す大王イカや水中人などを眺めつつ、もうしばらくは勉強をしなくていいんだという自由な時間を味わった。

「そういえば……メリー・マクドナルドに何をしたの?」

カーラはフルーツケーキを頬張りながら、隣に寝そべってナッツ・ブリトルをぽりぽりやっているマルシベールにたずねた。すると、マルシベールは弾けたように思い出し笑いを始める。

「ああ、あいつのこと──聞きたいか?」マルシベールはにやにやしながら焦らしている。
「教えてよ。でも、あんまりひどいことじゃないわよね?」カーラは少し心配になる。
「ちょっと可愛くしてやったんだよ。ひげを生やしてやったんだ」
「ひげ?」カーラは目を丸くする。
「ああ。しかも大好きなシリウス・ブラックの前でだ」

カーラはなんと言っていいか分からず、呆気に取られるしかなかった。マルシベールが言うには、マクドナルドがまたエイブリーにちょっかいをかけ、足を引っ掛けて転ばせようとしたので、その後の夕食の席で後ろからこっそり呪いをかけたらしい。前の席に座っていたブラックが異変に気づいて指摘したところ、マクドナルドは酷くうろたえ、どんどん伸びる巻き毛の髭を隠そうとしながら、大泣きして大広間から出ていったそうだ。それを見て涙が出るほど大笑いするマルシベールの姿がなんとなくカーラの目に浮かぶ。ちょっとかわいそうだと感じたけれど、もし自分もその場にいたら笑ってしまっていたかもしれないな、と思ったのはカーラだけの秘密だ。ともかく、マルシベールが女の子に対して本当にひどい悪戯をしたり、痛い呪いををかけた訳ではなかったので、カーラは少しほっとした。ぼうぼうに伸び切ったひげはマダム・ポンフリーが二分で治してくれたに違いない。

それからしばらくすると、答え合わせを終えたエバンとセブルスも加わって、夏休みの計画などを話しながら四人で楽しく過ごした。セブルスはあまり家に帰りたくなさそうで、四人の中でただ一人沈んだ面持ちだった。セブルスがあまりに深く項垂れているので、カーラがおずおずと「ご両親とうまくいっていないの?」と尋ねると、セブルスは「うまくいったことなんか一度もないよ」と吐き捨てた。ずっと学校にいられたらいいのにとまで言うので、カーラは気の毒になる。少しでも楽しい気分になってほしくて、お出かけを許してもらえそうなら三本の箒にいつでもいるからホグズミードに来て、と誘ったが、その望みも薄そうだった。それからは、マルシベールが元気のないセブルスをからかったり、エバンが親の主催するガーデンパーティーに招待すると約束したりしてなんとかセブルスを励ました。

カーラは久しぶりにロスメルタと一緒に長く過ごせることを思うと楽しみだったが、いつものようにリーマスに遊びに来てもらうことはできないのだろうと思うと、ちくんと胸が痛んだ。もし二年生になってもこのまま変わらなかったら、無視されようがなんだろうが、一度リーマスと話をしようと心に決めた。





* * *





それからちょうど一週間後に、試験結果が発表された。ほっとしたことに、カーラはかなり良い成績をおさめることができた。魔法史は百点中七十点といまいちだったが、変身術がなんと百三十点も取れていたので、他の科目も合わせるとほとんど満点に近い、すばらしい出来だった。にもかかわらず、全体で見るとカーラより上位の生徒が五人もいたので、感服すると同時にちょっぴりがっかりしてしまった。もしトップが取れていたら最高の気分でロスメルタに報告できたのに、と思う。

おそらく全教科満点かそれ以上を取ったのは、ポッター、ブラック、エバン、セブルス、リリーの五人だった。ポッターとブラックが同率で一位だったので、カーラはなんともいえない悔しい気持ちになる。二人とも全く勉強をするそぶりもなかったのにと思うと、せめてクィディッチではポッターに絶対勝ちたいというカーラの思いがますます強まるのだった。

「来年は絶対に優勝するぞ」

学年末パーティーで、ブランドン・ノットはめらめらと闘志を燃やしてカーラに杯を傾ける。カーラはその気持ちがよく分かった。最後のハッフルパフ戦で、スリザリンはひどい負け方をしたからだ。もちろんカーラはまだ試合に出させてもらえなかったのだが、自分がゲームに出ていた方が絶対にましな結果だったと思えるほどの負けっぷりだった。

その原因は、かつてカーラの鼻をへし折ったエドガー・モンタギューの兄オットー・モンタギューにあった。オットーがいつも通りキーパーをしたのだが、何をとち狂ったのか、ハッフルパフのビーターに何かいたずらをしようとして背後に忍び寄り、そのビーターがたまたま振りかぶった棍棒でノックアウトされて退場してしまったのだ。あまりにも自業自得といえる退場に、ハッフルパフだけでなくスリザリンでも非難ごうごうだった。クィディッチでは選手の交代は認められていないので、キーパーなしのスリザリンは当然ゴールを入れられるがままとなる。ブランがスニッチを捕まえた時には既に二百点の差をつけられており、スニッチを掴んだのに負けるという前代未聞の珍試合となってしまったのだ。ブランがオットーにどんな制裁をしたのかは想像するだに恐ろしい。オットーは今年卒業なので、来年からはもっとましな試合ができるはずだ、とブランは言う。

「オットーだけじゃなく、エドガーとアレクトも追い出してほしいけど」

隣に座っていたジャネットが会話に加わり、いらだたしげに言う。

「あの人たちったらチームワークというものを知らないんだから。やりにくくて仕方ないわ」
「もっと良い人材がいればそうするさ。だけど今のところあれ以上のがいないんだから仕方ないだろう」ブランが苦々しさを滲ませる。
「まあ、来年の選抜に期待だわね」ジャネットはため息を吐いた。
「選抜するの?」カーラは思わずジャネットに尋ねる。「もうチームは満員じゃないの?その──私を入れたら、だけど」

ジャネットは、六年生のラバスタンが来年はチームから抜けるのだということを教えてくれた。なんでも、卒業後の仕事のための準備で忙しくなるから、だそうだ。

「それじゃ、ビーターが空きになるのね。ブランはキーパーになって、私はシーカーになって、ということ?」
「そうだ」ブランはニッと笑う。「君の飛行はピカイチだ。来年はベストチームになると思うよ」

カーラは嬉しくて顔をほころばせる。ジャネットの言うとおり、これでエドガーとアレクトがチームから追放されたらもっと最高なのにと思わざるを得ない。しかしビーターのポジションが募集になるなら、エイブリーがもしかして入るかもしれない。そうすればもっとクィディッチは楽しくなるはずだ──カーラはエイブリーと特別親しい仲ではなかったが、ちょっとドジでのんびり屋のエイブリーのことが嫌いではなかった。後でエイブリーに選抜を受けるよう勧めてみよう。そう思いながら、一年生最後のホグワーツのごちそうに舌鼓を打った。

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