15 クリスマスパーティー

スラグホーンのパーティーは想像よりもずっと華やかで、生徒以外にもたくさんの魔女や魔法使いが招待されていた。スラグホーンの私室であろう部屋は魔法で拡張されているのか、数十人が入ってもまだゆとりのある広さで、輝くシャンデリアやクリスマスのオーナメントが部屋全体を豪華に彩っていた。天井からは魔法の雪や金色の星屑がはらはらと降っては消え、それがとても優美な雰囲気を醸し出している。カーラたち四人が到着した時には既に会場は賑わっており、美しく着飾った招待客達が飲み物のグラスを傾けながら、それぞれにお喋りを楽しんでいた。

「うわぁ……」カーラは目を輝かせて周囲を見渡す。「素敵!」

マルシベールはこんなの大したことないとばかりにフンと鼻を鳴らし、エバンはクリスマスツリーや壁に飾られたリボンなんかよりも誰が招待されたのかに興味があるらしく、静かに目を走らせている。セブルスは……とても居心地が悪そうで、今すぐ帰りたいと思っているのは明らかだ。カーラはロスメルタに選んでもらった新しいドレスを着てご機嫌だった。柔らかな生地のクリーム色のドレスで、スカートにはシフォンを幾重にもふんわりと重ねていて可愛らしく、とても気に入っている。

「この魔法の雪なんてすごいわ!あっ、見て──魔女ジャズバンドも来てる!」
「ホグズミードではこういうパーティーはなかったのか?」はしゃぐカーラを見てエバンが不思議そうに聞いた。
「うーん……あったかもしれないけど、私はだいたい三本の箒にいたし。招待されたこともないから、分からないわ」

カーラが肩を竦めて言うと、エバンはふうんと気の無い返事をした。

「それなら来年は僕の家のパーティーに来いよ」突然、退屈そうにしていたマルシベールが思い出したように言った。「来年はうちがホストでパーティーの準備をしなくちゃならないんだ。面倒なことこの上ないけど」
「ホストって?毎年持ち回りでやるってこと?」
「ああ、そうだよ」マルシベールは溜め息を吐いた。「交流のある家同士で毎年クリスマスのパーティーをやるのさ。招待されて行くだけでも……だったのに、ホストなんて。母上様がどれだけ張り切ることか」

マルシベールは話の途中で一瞬言葉を止め、反吐を吐くような顔真似をしてぼやく。カーラはマルフォイ家ではどうだったかと記憶をたどってみると、確かにパーティーのような集まりが何度かあったのをおぼろげに思い出した。カーラは当然参加させてもらえなかったので、得意顔でパーティー用の新しいドレスローブを着るルシウスを羨ましく見ていただけだったけれど。

カーラはいつも一緒にいる三人や、他にも聞かれた時にはホグズミードで下宿していることを話していたが、詳しい事情はまだリーマスにしか話したことがない。嘘をついていることに多少罪悪感はあったが、事実がどこかから漏れるかもしれないと思うと、「父は仕事で外国にいるので、父の知り合いのところに一時的に住まわせてもらっている」ということにしている方がずっと良い。セブルスやマルシベール、エバンはカーラが話したこと以上に知りたがったりしなかったので、とてもありがたかった。ちらりと隣を見ると、マルシベールが仏頂面のセブルスを小突いている。

「で、君はプレゼントに何を用意したんだい?」
「放っといてくれ」

セブルスは不機嫌そうに言った。パーティーではプレゼント交換をするので、それぞれ一つずつプレゼントを持ち寄らなければならない。カーラにはスラグホーンがどうしてこんなことを始めようと思ったのか分からなかった。最初は楽しい試みだと思った。しかしいざやってみると、自分のプレゼントが手に渡る相手が男の子か女の子か、同級生なのか、それとも七年生の監督生なのかすら分からないので、選ぶのにとても苦労した。マルシベールはクアッフルほどの大きさの包みを、エバンはそれよりもひとまわり小さなのを持っている。セブルスの包みは薄い箱なのでおそらく本かもしれない。

「マルシベール、それを今言っちゃうと面白くないじゃない。私たちのがお互いに当たるかもしれないんだし」
「そう、その通り!」スラグホーンが上機嫌で魔女集団の間を割って現れた。「よく来てくれたね、カーラ。それにエバン、セブルス、マルシベールも!みんなプレゼントは持ってきたね?」

スラグホーンは手をパチンと鳴らして屋敷しもべを呼び出した。屋敷しもべは回転するようにその場に現れ、四人からプレゼントを恭しく受け取ると、またすぐに消え去った。セブルスは愕然として、今見た変な生き物は一体何だったのかという顔をしている──カーラは「屋敷しもべ妖精よ。掃除とか料理とか、そういうことをしているの」とセブルスにこっそり耳打ちした。

「セブルスはしもべ妖精を見るのが初めてかね?まあ、彼らは普通姿を見せないし──気にする者もあまりいないだろうから無理はない。それより、君たち四人だけで固まっていないで先輩達と話をしたらどうだね?ああ、ノットにザビニ!こっちへ」

スラグホーンは弾んだ声で向こうの方にいた生徒を呼んだ。何人かをかき分けてこちらに来たのは二人のスリザリンの上級生だった。カーラはすぐに、先日初めて観戦したクィディッチ寮対抗戦で、グリフィンドールとの試合に出ていた二人だとわかった。一人は背の高い男子で、スリザリンチームのキャプテンだ──ゾーイとアマンダがかっこいいとはしゃいでいたシーカーだ。もう一人は黒髪を腰まで伸ばした黒人の綺麗な女の子で、確かチェイサーとしてプレイしていた。

「全員もう顔は見知っているだろうが──こちらはエバン・ロジエール、カーラ・グレイ、セブルス・スネイプ、レオ・マルシベール。四人とも一年生だ。さてこの二人は六年生のブランドン・ノット、三年生ジャネット・ザビニだ。みんなスリザリンの仲間だよ」

スラグホーンは「さぁ、お膳立てはしてあげたよ」と言うように両手を広げてにっこり笑うと、今度は近くにいた卒業生らしき魔法使いに目をつけて、そちらの方へ行ってしまった。残された六人は「よろしく」と言いながら握手した。なんとか全員が握手を終えると、三年生のザビニがカーラににっこり笑いかけた。

「ねえ、あなた少し前に話題になってた子でしょう?ほら、飛行訓練の」
「あっ、ええ──はい。そうだと思います」カーラは少しばつの悪い思いをしながら頷いた。
「やっぱり!ブラン、きっとこの子をチームに入れるべきよ。来年になるでしょうけど、とってもすごいって聞いたんだから」
「俺は実際見ていないから分からない。けど自信があるなら次の選抜テストを受けてほしい」ノットはザビニと比べるとあまり期待はしていない様子だが、少しは興味を持ったらしい。「そのつもりがあるのか?」

カーラはもちろん入りたい、と即答した。クィディッチチームに入ってプレイすることは、入学した頃からの夢だった。できればシーカーをやりたいが、ポストに空きがなければチェイサーやビーターでも構わない、ということをカーラは熱っぽく伝えた。ノットはふむ、と顎に手を当てて少し考えると、「来年を待たずにテストを受けてみるか?」とカーラに提案した。

「一応決まりとしては、選手からの推薦があれば、正式な選抜でなくてもテストは受けられることになっている。もちろんここにいるジャネットが推薦するというなら、だが」ノットはザビニをちらりと見る。
「ええ、ええ!推薦するわ。私も評判通りなのかどうか、グレイが飛ぶところを見てみたいし」
「本当!?ありがとう!」

思いもよらない幸運が降ってきて、カーラは踊り出したい気分だ。まだ入ると決まったわけではないが、授業じゃなくちゃんとしたクィディッチをプレイできるかもしれないと思うと、その土台に乗ったということだけでも嬉しかった。ノットはポジションはまだ分からないということ、現時点で空きはないから、テストに受かったとしても試合に出られるのは来年以降になることをカーラに説明した。

「今のキーパーが七年生だから、来年そこが空いてしまうんだが、君は体格的にキーパーは無理だろう。となると俺がむしろキーパーをやって、君がシーカーになる方がいいかもしれない……他に適任がいないからシーカーをやってただけで、元々俺はキーパーの方が得意なんだ。君はまだ一年生だし相当上手くないと厳しいが……それに来学期の選抜で他にもっといい選手がいるかも……」

ノットは敵に盗み聞きされないように周囲を警戒しながら、半分独り言のように小声でブツブツ言っている。

「まあ、見る前にあまり期待をしてもしかたがないな」
「そうね、メンバーとの相性もあるし」ザビニは艶やかな黒髪をさらりとかき上げて微笑んだ。「でも私は楽しみにしてるわ。私と同じチェイサーになるかもしれないしね」

カーラがノット達と劇的なやりとりをしている中、いつの間にかルシウスとラバスタンが近くに来ていたらしい。ラバスタン・レストレンジは監督生で、カーラは新入生歓迎会のときに一度話したことがある。二人はセブルスらと何やら談笑していた。

「──ほう、君達は賢明だな。だがまだ早い──」
「でも僕は……」

声を落として話すルシウスに対して、セブルスが何か言いかけた時、魔女ジャズバンドの曲調が急に変わった。するとスラグホーンが真ん中の広間に弾むように出てきて、プレゼント交換の時間だと発表した。スラグホーンが杖を振るとどこからともなく巨大なクラッカーが出現し、もう一度杖を振ると紐が引かれて大きな音が鳴ると共に、クラッカーの中から数十本のキラキラ光るリボンが現れた。どうやら巨大クラッカーの中に、皆が持参したプレゼントが入っているらしい。ルシウスが手慣れた様子で杖を振ると、一本のリボンがその手元まで手繰り寄せられた。他の皆もそうしているので、カーラもならって杖を振り、リボンを引き寄せた。

「さあ、お待ちかねの瞬間だ!いち、に、さん──」

スラグホーンが杖を振った瞬間、ポンという軽快な音と共にプレゼントの包みが現れた。カーラの手元に現れたのは、銀色のリボンで飾られた薄い包みで、おそらく本か何かだと思われる。一瞬セブルスが持ってきていたものかと思ったが、包みの色が違っていた。周囲でもプレゼントを手にした招待客の歓声が聞こえてきた。

「本かしら?」カーラが呟きながらリボンを解いていると、隣のマルシベールがうぇー!と嘆いた。
「なんだよ、これ!こんなもの誰が欲しいってんだ?」

カーラは思わず声をあげて笑ってしまった。マルシベールが勝ち取ったのはプレゼントの中で一番大きな包みで、なんと中には巨大なライオンのぬいぐるみが入っているらしい。眉が垂れ下がって、ちょっと間の抜けた顔のライオンだ──マルシベールが両手を回しても届かないくらい大きい。ぬいぐるみは時々眠そうにあくびをしたり、前足で顔を洗ったりしている。

「グリフィンドールの奴の嫌がらせに決まってる!犯人を見つけたらただじゃ──」
「かわいいじゃないか、レオ?」カンカンのマルシベールを見て、エバンは珍しく可笑そうに笑っている。
「お似合いだ、レオ」セブルスも意地悪くニヤニヤしている。
「僕を下の名前で呼ぶな!」マルシベールが食ってかかる。「消失呪文が使えたら、こんなもの──」

大きなぬいぐるみを寮まで持って帰らなければならず、憤慨するマルシベールの姿を、眼鏡をかけたグリフィンドール生が大笑いして見ているのが目に入った気がしたが、カーラは見なかったことにした。そこに、面白そうに笑いを堪えたラバスタンがやって来た。

「消失させてやろうか?」
「お願いします」マルシベールは不機嫌そうに頼んだ。
「エバネスコ 消えよ!」

しかし何も起こらない。ラバスタンは首を傾げる。

「だめだな──それじゃ、レデュシオ 縮め!」
「変質防止呪文がかけられているな」ルシウスがぬいぐるみを眺めたり触ったりしながら言った。
「消失させることも、小さくしたり姿を変えたりすることも出来ないようになっている。つまりマルシベール、君はこれを寝室まで持って帰って、ベッドの脇に飾らないといけない」

エバンとセブルスが声を上げて笑った。マルシベールはますます膨れる。カーラはマルシベールから欲しいかと聞かれたが、首を横に振った。くすくす笑いながらカーラが自分の包みを開けてみると、それは『魔術の探究 闇と光』と表紙に書かれた難しそうな本だった。数ページめくってみた感じでは、「光と闇」と題されているにも関わらず、いささか「闇」に偏っているようだ──痛そうな挿絵がいくつもある。カーラはパタンと本を閉じて、皆とのお喋りに戻った。

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