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静かな寝顔を眺めながら無意識に目を細める。腕の中にある存在が唯一の真実。胸を締め付ける苦しさに思わず泣きそうになって、気付けばうっすらと視界がぼやけていた。空を見上げれば滲む歪な弓月。夜特有の静けさが今のオレには孤独を強調させた。

「ん…」

もぞりと動く彼女、いつのまにか強めていた腕の力に気付く。ああ、苦しい。月に照らされ強調される肌の白さが何故だか嫉ましくも思えた。この白い頬は、返り血による血化粧がよく映えることをオレは知っている。幼い面影を隠しもせず、気の置かない寝顔を曝す今の彼女を見つめると、苦しさが益々心に募った。苦しい。苦しい苦しい苦しい。胸が締め付けられる。頭が沸騰しそうだ。手足の痺れたような感覚に、どうしようもなくなって意識のない彼女を掻き抱いた。苦しい、苦しい。助けてくれ。オレを救えるのはおまえしかいない。

「…我愛羅?」

完全に目が覚めたらしい、肩口に顔を埋めているオレの頭をそっと撫でながら彼女が小さく呟いた。また、ひとつ。か細いその甘い声に胸が潰されそうになる。助けてくれ。呼吸まで、奪われそうだ。縋る心に比例して、腕の力が益々強まった。

「我愛羅…?痛いよ」

オレはそれ以上に苦しい。痛いと言いながらも拒否をするわけではないその姿に益々視界が歪む。なあ、苦しい。苦しいんだ。おまえを見てると心臓が潰されそうになる。目の前のおまえが幻のようで、触れていないと脳が痺れる。存在しているのか確信が欲しくて、その声を聞きたくなる。オレの名を呼んでくれ。オレを求めてくれ。オレを必要としろ。オレを愛せ。

「…苦、しい…っ」

愛しくて気が狂いそうだ。


20110129

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